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第8話 配達
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しおりを挟む「メグルくん、まだ小学生でしょ? 配達のお手伝いは高校生になってからでいいのよ」
澄みきった青い空が、淡く色づきはじめた頃。
子ども食堂は、十七時からの開店に向けて準備に追われていた。
坂田佐和子が厨房で大量の野菜を切り、ボランティアの女子大生たち数人が鍋をかき回したり、お皿に盛りつけたり一緒に手伝いをしている。
「でも泊めてもらっていますし、ぼくも子ども食堂の役に立ちたいんです」
「お父さんに頼んだ追加の買い出し、手伝ってきたら?」
脇目も振らずに坂田佐和子が声を張り上げる。厨房はまるで戦場のようだ。
「あんなのモグラ……いえ、父さん一人で出来ますから」
「なにお前、配達手伝いたいの?」
そのときメグルの背中に声をかけてきたのは、高校生くらいの男子だった。
ブレザーの制服をかなり着崩し、耳にピアスをしている。
「うぃ~っす」
男子高校生は、厨房の坂田佐和子や女子大生たちに挨拶すると、学校のカバンを子どもスペースに放り投げた。
「加藤くん、今日配達二件頼める?」
坂田佐和子が、ちぎったメモ用紙を高校生男子に手渡した。
「いいすよ、じゃあ行ってきます」
加藤と呼ばれた青年はカウンターに並べられた弁当を二つ手に取り、慣れた手つきで配達用バッグに入れて食堂を出ようとした。
すると厨房から顔をのぞかせた坂田佐和子が、あわてて付け足した。
「中村さん最初ね! あのひと遅れると怒るから……」
「了解っす!」
加藤青年がふと足を止め、メグルに目配せして出て行った。
あわててメグルが後を追う。
「いいんだよ、お前みたいな来たばっかの子が気を遣わなくたって。遠慮なく飯食わせてもらっときな」
加藤青年が配達用バッグを背負い、外に止めてあった自転車にまたがった。
「ぼくも来年は中学生だし世話になってばかりいられません。昨日なんか、あの食堂に泊めさせてもらってるんです。見習いに付き合わせてください!」
加藤青年は目を丸くしてメグルを見ると、手を差し出した。
「お前ちっこいくせに偉いのな……。おれ、加藤誠司。よろしくな」
「ぼく菅野メグルです、よろしくお願いします」
メグルが握手したとたん、加藤誠司はにやりと笑った。
「じゃあメグル、全力でついてこいよ!」
加藤誠司がいきなり自転車を漕ぎ出す。
「ちょ、ちょ待ってっ!」
公園の芝生広場を縦断する加藤誠司の自転車を、メグルは全力で追いかけた。
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