二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
37 / 70
第8話 配達

01

しおりを挟む
 
「メグルくん、まだ小学生でしょ? 配達のお手伝いは高校生になってからでいいのよ」

 澄みきった青い空が、淡く色づきはじめた頃。
 子ども食堂は、十七時からの開店に向けて準備に追われていた。
 坂田佐和子が厨房で大量の野菜を切り、ボランティアの女子大生たち数人が鍋をかき回したり、お皿に盛りつけたり一緒に手伝いをしている。

 「でも泊めてもらっていますし、ぼくも子ども食堂の役に立ちたいんです」

 「お父さんに頼んだ追加の買い出し、手伝ってきたら?」

 脇目も振らずに坂田佐和子が声を張り上げる。厨房はまるで戦場のようだ。

 「あんなのモグラ……いえ、父さん一人で出来ますから」


 「なにお前、配達手伝いたいの?」

 そのときメグルの背中に声をかけてきたのは、高校生くらいの男子だった。
 ブレザーの制服をかなり着崩し、耳にピアスをしている。

 「うぃ~っす」

 男子高校生は、厨房の坂田佐和子や女子大生たちに挨拶すると、学校のカバンを子どもスペースに放り投げた。

 「加藤くん、今日配達二件頼める?」

 坂田佐和子が、ちぎったメモ用紙を高校生男子に手渡した。

 「いいすよ、じゃあ行ってきます」

 加藤と呼ばれた青年はカウンターに並べられた弁当を二つ手に取り、慣れた手つきで配達用バッグに入れて食堂を出ようとした。
 すると厨房から顔をのぞかせた坂田佐和子が、あわてて付け足した。

 「中村さん最初ね! あのひと遅れると怒るから……」

 「了解っす!」

 加藤青年がふと足を止め、メグルに目配めくばせして出て行った。

 あわててメグルが後を追う。


 「いいんだよ、お前みたいな来たばっかの子が気を遣わなくたって。遠慮なく飯食わせてもらっときな」

 加藤青年が配達用バッグを背負い、外に止めてあった自転車にまたがった。

 「ぼくも来年は中学生だし世話になってばかりいられません。昨日なんか、あの食堂に泊めさせてもらってるんです。見習いに付き合わせてください!」

 加藤青年は目を丸くしてメグルを見ると、手を差し出した。

 「お前ちっこいくせに偉いのな……。おれ、加藤誠司かとうせいじ。よろしくな」

 「ぼく菅野メグルです、よろしくお願いします」

 メグルが握手したとたん、加藤誠司はにやりと笑った。

 「じゃあメグル、全力でついてこいよ!」

 加藤誠司がいきなり自転車を漕ぎ出す。

 「ちょ、ちょ待ってっ!」


 公園の芝生広場を縦断する加藤誠司の自転車を、メグルは全力で追いかけた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★ 巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか? 死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。 終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。 壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。 相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。 軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

足が落ちてた。

菅原龍馬
ホラー
これは実際に私が体験した話です。 皆さん、夜に運転する時は気を付けて下さい。

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

長野県……の■■■■村について

白鳥ましろ
ホラー
この作品はモキュメンタリーです。 ■■■の物語です。 滝沢凪の物語です。 黒宮みさきの物語です。 とある友人の物語です。 私の物語です。 貴方の物語でもあります。 貴方は誰が『悪人』だと思いますか?

処理中です...