36 / 70
第7話 あしながおじさんと女の子
04
しおりを挟む「……あっ、紬ちゃん」
雨宮香澄の表情がとたんに明るくなる。
「知ってるの?」
メグルが訊ねると、雨宮香澄は立ち上がってこたえた。
「わたし、憑依した体の記憶と感情が読めるから……」
芝生広場を一気に走ってきた女の子は、押し倒さんばかりに雨宮香澄に抱きついた。
「もう、香澄ねえちゃんどこ行ってたのさぁ? すごく寂しかったんだからっ!」
雨宮香澄の胸に抱かれながら、女の子がほっぺを膨らませて怒り出す。
「最近、配達ばかりだったの。わたしも会いたかったよ!」
キラキラと輝くような香澄の笑顔に、メグルはいつのまにか自分の表情が緩んでることに気づいた。
雨宮香澄が、こんなにも弾けるように笑うなんて……。
「……新しいお友だち?」
女の子が雨宮香澄に抱きつきながらメグルに目を向けた。
メグルは立ち上がり、手を差し出した。
「菅野メグル、小学六年生です」
差し出された手をじっと見つめた女の子が、香澄を見あげる。
雨宮香澄が笑顔でうなづくのをみて、女の子がメグルの手を握った。
「わたし如月紬。小学二年生です。よろしくね」
ピンクのコートに白いふわふわのマフラーをした如月紬は、ツインテールの髪を揺らしながら愛嬌のある笑顔を見せた。
「香澄ねえちゃんが公園に向かって歩いてるのお昼休みの校庭から見つけて、紬、追いかけてきちゃった」
「あ~あ、悪い子だ。じゃあ、お姉ちゃんと一緒に学校もどろうね」
「えぇ~やだぁ! 一緒に『つながり』行ってお菓子食べようよ~」
「はい、まわれ~右! いちにっ、さんしっ!」
如月紬の背中を押して小学校へ戻ろうとした雨宮香澄が、ふと振り返りメグルに耳打ちした。
「……坂田さんに頼み込んで、配達やってみて」
雨宮香澄と如月紬が、はしゃぎながら公園の芝生広場を走っていく。
その姿はどこの公園でも見かける、幸せそうな光景だった。
「あいつ、雨宮香澄の魂と混ざっちまったんじゃねぇか……?」
いつのまにかモグラも立ち上がり、メグルと同様二人の姿を見つめていた。
モグラの指摘は言い得て妙だとメグルは思った。
サヤカの場合は、本人と憑依した魂のどちらかが覚醒し、もう一つの魂は寝ているような状態だった。
「あんなにも干渉しないと言っていたのに……。人間を理解しようとしているのか、二条美華」
3
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル
ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★
巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか?
死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。
終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。
壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。
相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。
軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。
視える棺2 ── もう一つの扉
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。
影がずれる。
自分ではない"もう一人"が存在する。
そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。
前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。
だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。
"棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。
彼らは、"もう一つの扉"を探している。
影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者——
すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。
そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。
"視える棺"とは何だったのか?
視えてしまった者の運命とは?
この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。
ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿
加来 史吾兎
ホラー
K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。
フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。
華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。
そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。
そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。
果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。


りんこにあったちょっと怖い話☆
更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】
ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡
田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。
あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。
おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。
視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。
誰もいないはずの部屋に届く手紙。
鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。
数え間違えたはずの足音。
夜のバスで揺れる「灰色の手」。
撮ったはずのない「3枚目の写真」。
どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。
それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。
だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。
見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。
そして、最終話「最期のページ」。
読み進めることで、読者は気づくことになる。
なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。
なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。
そして、最後のページに書かれていたのは——
「そして、彼が振り返った瞬間——」
その瞬間、あなたは気づくだろう。
この物語の本当の意味に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる