二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第7話 あしながおじさんと女の子

03

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「けっ! なぁにが出資者だよぅ、白いスーツなんて着てスカしやがって! 世の中の金持ちなんて大概たいがいが汚ねえことして儲けてんだからよ!」

 モグラの愚痴に付き合いつつ、メグルはメモ書きを見ながらカートに食材を入れた。
 ふたりは近くにある激安スーパーに買い出しに来ていた。
 午前中だからか、客足はまばらだ。

 「とんでもない偏見だな。でもまあ、あの金山って男に関しては言い当ててるかも知れない。星見鏡で星を数えてみたけど……。驚くなよ? 成就星が二つ、試練星が二十三個だ」

 「に、に、にじゅうさんこ……? 確実に来世は堕界だかいじゃねえか……」

 「ああ、日常的に悪事や犯罪に手を染めていないと、ここまで試練星が増えることはない。あいつ、とんでもない悪党だぞ。……そこのもやし、取ってくれ」

 モグラが一袋十五円の特売もやしを両手でつかみ取り、力任せに握りつぶす。

 「そんな男に純情な佐和子さんは騙されて……。おいら絶対に佐和子さんを守るぞ! あの男の尻尾を掴んで、ぎゃふんと言わせてやるっ!」




 「……とまあ、意気込んでみたのはいいものの、何から手をつければいいのか全くわからねぇな……」

 手伝いもひと通り終え、何もすることがなくなったメグルとモグラは、公園のベンチにだらりと寝転んでいた。
 高く晴れた青い空に、細い雲がたなびいている。

 「金山の試練星が異常に多いのは確かだけど、子ども食堂で悪事を犯してるとは限らないしな……」

 天気が良くて風もなく、十二月にしては暖かかな昼下がり。
 目のまえの芝生広場には、レジャーシートを広げた若い母親が、幼い子どもと一緒にお昼ご飯を食べている。

 「確かに……。こんな平和な公園のそばで悪事が繰り返されてるなんて、ちょっと考えられねぇよなあ……」

 温もりのある陽ざしを全身に浴びながら、うとうとと睡魔に襲われそうになったとき、

 「きみたち、昼間っから随分ずいぶんとだらしないんじゃないの?」

 目を開けると、眩しい太陽を背にした雨宮香澄が、ふたりを見下ろしていた。


 「……二条美華!」

 あわてて体を起こして警戒するモグラを手で制して、メグルが訊ねた。

 「あなたこそ学校に行かなくていいんですか? 雨宮香澄はいま高校生のはずでしょう?」

 「そう、高校一年生。香澄でいいよ」
 雨宮香澄はメグルのとなりに腰を下ろした。

 「人間界の学校って、なんか非効率で義務的で……惰性だせいで集まってる感じよね。つまらないから抜けてきた」

 「香澄さん、学校に友だちはいました? その……本物の雨宮香澄に……」

 メグルは子ども食堂に通い、自殺に至った雨宮香澄から何か掴めるのではないかと質問した。


 「うん、わたし結構人気者みたいよ。学校では陽キャラを演じてたみたい」

 「家庭はどうでした? 家には帰っているんでしょ?」

 レジャーシートを広げた幼い子ども連れの親子から、楽しげな笑い声が聞こえる。
 雨宮香澄はその光景を遠い目で眺めながら、ぽつりとつぶやいた。


 「家庭はあんまり……しあわせとは言えないわね……」

 それから雨宮香澄は黙ったまま、広場の親子を見つめていた。
 その寂しそうな横顔に、メグルもそれ以上は何も訊けずに口を閉じた。
 警戒していたモグラも、無言でベンチに横になる。

 すると、広場の向こうから歓声をあげて走ってくる小さな女の子が現れた。


 「……あっ、つむぎちゃん」

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