二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第7話 あしながおじさんと女の子

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 「ほらほら、喧嘩しないで手を動かしてくださぁ~い! ドリュウさん、買い出しをお願いしてもいいかな?」

 「はいは~い、よろこんで~っ!」

 モグラが布巾を放り投げて坂田佐和子に駆け寄ったそのとき、


 「どう佐和子さん、順調?」

 子ども食堂の引き戸を開けて、背の高い若い男性が入ってきた。
 白いスーツにライトグレーのコートを羽織り、高そうなマフラーを首にかけている。

 「おはようございます、金山かなやまさん!」

 坂田佐和子がモグラの横をすり抜け、金山と呼ばれた男性に駆け寄る。
 その瞳はきらきらと輝いていた。


 「きのう小学生の子どもたちが初めてお手伝いをしてくれたんです! 何も言わないのに、自発的にやってくれたんですよ!」

 「それは良かった。配達の方も手伝ってもらえてる?」

 金山が坂田佐和子の肩に馴れ馴れしく手をかける。
 しかし坂田佐和子は、まったく嫌がるそぶりを見せなかった。

 「ええ、年上の子たちが一生懸命やってくれています」

 あまりにも不憫で、メグルはモグラの姿を直視することができなかった。
 しかし運悪く、金山は厨房で立ち尽くしているモグラを発見してしまった。


 「あちらの方は……」

 「ああ、昨日からお手伝いをしてくれている、ええと……なんだっけ、なんとかドリュウさんです。親子でいらして、子どもたちにとっても人気なんですよ」

 背中を向けたまま肩を小刻みに震わせていたモグラが、ゆっくりと振り返る。
 懸命に笑顔を作ってはいたが、いつも垂れている目尻が異様な角度で吊り上っていた。


 「はじめまして、ここの出資者 金山寛助かなやまかんすけです。佐和子さんの人助け精神に感銘を受けて、この子ども食堂『つながり』の経費をほぼすべて、単独で援助させてもらっています」

 自信たっぷりの爽やかな笑顔で差し出されたその手を、モグラが強く握り返す。
 引きつった笑顔からなんとか声を絞り出して挨拶した。

 「湖南……。いえ菅野土竜かんのどりゅうです……よろしく……」

 金山の訝しげな視線が、モグラのつま先から頭の先まで何度も往復する。

 「こ、ここは食堂ですので、なにぶん清潔に頼みます……。きみは菅野さんの息子さんかな?」

 とつぜん目を向けた金山に、メグルはとっさに手に持っている星見鏡を掛けた。

 「おはようございます。小学六年生の菅野メグルです」

 「礼儀正しいお子さんだ。いいご教育をされてますね」

 金山はメグルの頭を軽く撫でると、すぐに踵を返した。

 「え、もう行ってしまうんですか?」
 坂田佐和子が名残惜しそうに金山の背に声をかける。

 「これから朝の大事な会議で……。また夜に来ます、では!」


 金山の白い前歯が朝日に照らされキラリと光る。
 公園の芝生広場を颯爽と歩いて行く金山を、坂田佐和子はいつまでも見送っていた。


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