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第7話 あしながおじさんと女の子
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氷のように透きとおる澄んだ空気が、刻々と近づく冬の気配を伝える朝。
モグラは布巾でテーブルを拭きながら、窓から差し込む朝日で銀色に輝く厨房に立ち、忙しく料理の下ごしらえをする坂田佐和子をずっと見つめていた。
「今日も訪れるであろう、子どもたちや貧困家庭の親子たちのために、あんなにも額に汗して頑張っている佐和子さんを疑うなんて、管理人も見る目が落ちたものだ……嘆かわしい」
石油ストーブの上に置いたやかんから、しゅんしゅんと湯気が立っている。
メグルとモグラは、泊めてもらったお礼に食堂の掃除をしていた。
「ぼくを殺そうとしていた二条美華の話を、ぼくだって簡単に信じている訳じゃない……。だが彼女がわざわざ管理人のぼくに異常を伝えるってことは、どこかで越界者が絡んでるいんだろう……。そうだ!」
子どもスペースのカーペットを粘着クリーナーで掃除していたメグルが、思いついたように部屋の隅に置いた肩掛けカバンを手に取った。中から牛乳瓶の底のような分厚いレンズの黒縁眼鏡を取り出す。
「こっそり星見鏡で見てみよう。不法に人間界に入界した越界者には、乗り越えるべき試練なんて与えられてないから星がないもんな」
そそくさとモグラが駆け寄り、小声で訪ねる。
「……どうよ?」
メグルは眼鏡のフレームを人差し指でずり上げながら目を細めた。
「ええと……試練星六個、成就星三個」
モグラが分析する。
「初めての世界に転生した者には、まず十二個の試練が与えられる。一度の人生で乗り越えられる試練は、大抵二~四個。人生を終えた時点で成就星は頭の上から消えるから、全部で九個ってぇことは、たぶん二度目の人間界だな」
メグルが星見鏡を外して、首をかしげた。
「まあ、あの年齢ですでに三個の試練を乗り越えてるんだから、割とよくやってる感じだけど……。子ども食堂をやるくらい徳を積んでるんだから、もっと成就星があってもよくないか?」
「甘いぞメグル」
モグラが得意げにぴんっと口髭を指で弾いた。
「試練星はその者の克服すべき悩みとか欠点、省みるべき悪行によって生まれる。つまり善行で減らせるものではないのだよ」
「ふ~ん……」
いつになく尊大な態度で説明するモグラに、メグルはちょっとカチンときていた。
「でもあれ、擬星玉かもしれないよな?」
確認しろモグラ。って感じでメグルが星見鏡を手渡した。
「どれどれ、う~ん。あの星が本物か偽物か、よく見てもわからねぇなぁ……って当たり前だろ! 越界者であることが管理人にバレないようおいらが作ってバラ蒔いたのが擬星玉だ。星見鏡で見分けがついてたまるか!」
メグルが舌打ちする。
「製作者が見分けつかないほど精巧に作るなよ、バカか……」
黒縁眼鏡のモグラが、顔を真っ赤にして反論した。
「本来は擬星玉検索プログラムが入ったパソコンで探すんだ! 追い出された探偵事務所にパソコン置きっぱなしなんだから、しょうがないじゃないの!」
星見鏡をメグルに投げ返す。
「だいたい星の真偽を確認するまでもねぇや! あんなに子どもたちを愛する慈悲深い佐和子ちゃんが、越界者のわけねえじゃねぇか! お前さんは人を見る目がねえんだよ! そんな眼鏡をかける前に心眼を鍛えろ、心眼を!」
すると厨房から坂田佐和子が笑顔で話しかけてきた。
モグラは布巾でテーブルを拭きながら、窓から差し込む朝日で銀色に輝く厨房に立ち、忙しく料理の下ごしらえをする坂田佐和子をずっと見つめていた。
「今日も訪れるであろう、子どもたちや貧困家庭の親子たちのために、あんなにも額に汗して頑張っている佐和子さんを疑うなんて、管理人も見る目が落ちたものだ……嘆かわしい」
石油ストーブの上に置いたやかんから、しゅんしゅんと湯気が立っている。
メグルとモグラは、泊めてもらったお礼に食堂の掃除をしていた。
「ぼくを殺そうとしていた二条美華の話を、ぼくだって簡単に信じている訳じゃない……。だが彼女がわざわざ管理人のぼくに異常を伝えるってことは、どこかで越界者が絡んでるいんだろう……。そうだ!」
子どもスペースのカーペットを粘着クリーナーで掃除していたメグルが、思いついたように部屋の隅に置いた肩掛けカバンを手に取った。中から牛乳瓶の底のような分厚いレンズの黒縁眼鏡を取り出す。
「こっそり星見鏡で見てみよう。不法に人間界に入界した越界者には、乗り越えるべき試練なんて与えられてないから星がないもんな」
そそくさとモグラが駆け寄り、小声で訪ねる。
「……どうよ?」
メグルは眼鏡のフレームを人差し指でずり上げながら目を細めた。
「ええと……試練星六個、成就星三個」
モグラが分析する。
「初めての世界に転生した者には、まず十二個の試練が与えられる。一度の人生で乗り越えられる試練は、大抵二~四個。人生を終えた時点で成就星は頭の上から消えるから、全部で九個ってぇことは、たぶん二度目の人間界だな」
メグルが星見鏡を外して、首をかしげた。
「まあ、あの年齢ですでに三個の試練を乗り越えてるんだから、割とよくやってる感じだけど……。子ども食堂をやるくらい徳を積んでるんだから、もっと成就星があってもよくないか?」
「甘いぞメグル」
モグラが得意げにぴんっと口髭を指で弾いた。
「試練星はその者の克服すべき悩みとか欠点、省みるべき悪行によって生まれる。つまり善行で減らせるものではないのだよ」
「ふ~ん……」
いつになく尊大な態度で説明するモグラに、メグルはちょっとカチンときていた。
「でもあれ、擬星玉かもしれないよな?」
確認しろモグラ。って感じでメグルが星見鏡を手渡した。
「どれどれ、う~ん。あの星が本物か偽物か、よく見てもわからねぇなぁ……って当たり前だろ! 越界者であることが管理人にバレないようおいらが作ってバラ蒔いたのが擬星玉だ。星見鏡で見分けがついてたまるか!」
メグルが舌打ちする。
「製作者が見分けつかないほど精巧に作るなよ、バカか……」
黒縁眼鏡のモグラが、顔を真っ赤にして反論した。
「本来は擬星玉検索プログラムが入ったパソコンで探すんだ! 追い出された探偵事務所にパソコン置きっぱなしなんだから、しょうがないじゃないの!」
星見鏡をメグルに投げ返す。
「だいたい星の真偽を確認するまでもねぇや! あんなに子どもたちを愛する慈悲深い佐和子ちゃんが、越界者のわけねえじゃねぇか! お前さんは人を見る目がねえんだよ! そんな眼鏡をかける前に心眼を鍛えろ、心眼を!」
すると厨房から坂田佐和子が笑顔で話しかけてきた。
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