二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
32 / 70
第6話 雨宮香澄

04

しおりを挟む
 
「なあメグルよ……佐和子さんって本当にやさしいな。いきなり現れたおいらたちを、食堂の一角に泊めてくださるなんて……」

 メグルとモグラが今夜泊まることがないことを知った坂田佐和子は、幼い子どもたちが遊ぶカーペットが敷かれた子どもスペースに寝泊まりすることを勧めてくれた。
 厨房も食堂も照明を落とし、子どもスペースの蛍光灯だけが微かなノイズを響かせながら光っている。

 「一歩間違えたら本当にマンホールに潜るところだったなからな。ここはとっても暖かいや……」

 山積みにされたパステルカラーの沢山のぬいぐるみに、メグルが体を沈めた。

 「素敵な出会いだ……。おいら魔鬼なんかと争わないで、ここでず~っと人助けに生きようかな……」

 モグラが幼い子ども用のミニテーブルに頬杖をついて、お茶をすすりながら、ぽよよんとつぶやく。


 「その魔鬼なんだけど、さっきの女子高生、二条美華だった」

 「そうか……二条美華だったか……。ぶふっ! 二条美華ぁ?!」

 思わずモグラがお茶を吹き出した。

 「もっと驚くぞ。彼女、四聖ししょうから来たらしいんだ」


 「しぇえええ~~~っ!」 


 さらに握りしめた湯呑みを放り投げて叫んだ。

 「そうか……、精神世界の四聖の魂は魔鬼と同様、六道で体を持てない。だから林姉妹の体に憑依していたのか……。しかし、四聖とは驚いたな……」

 ぬいぐるみに埋もれていたメグルが体を起こした。

 「三〇〇年も人間界にいるモグラでも、やっぱり珍しいのか?」

 「直接会ったことはないが、話には聞いたことはあるぜ。もともと四聖の魂は六道なんかに興味はねえが、たまに 「菩薩ぼさつ界」あたりの奇特なお方が人間界に降りて人助けをするとかなんとか……。いわゆる神様的な存在としてよ」

 メグルはくせのある前髪を人差し指に絡ませながらつぶやいた。

 「二条美華はそんなんじゃない……」

 そしてサヤカの体を奪った魔鬼が、二条姉妹の魂から分裂した飛鳥だったこと、さらに飛鳥を封印された仇討あだうちが二条姉妹の目的だったことを説明した。


 「そうか、サヤカの体を奪ったあの魔鬼が……。しかし四聖と魔界、両極端の世界だと思ったが、方向性が違うだけで、割と近しい世界なのかもしれねえな……」

 そこまで言って、モグラははっとした。
 「林美沙衣の体は無事だったのか?」

 「二条美華が体から出たあと蘇生処置を行った。息を吹き返したそうだ」

 「そうか、良かったぜ。……そんであの少女の体は?」

 「ぼくらから逃げたあの夜、新たに調達したんだって」

 「レンタカーみたいに言うな!」
 思わずモグラが突っ込む。

 「二条美華が自殺に誘導したのか?」

 メグルが首を振る。

 「二条姉妹は魂のオーラが見えるらしい。昨夜、黒いオーラを感じる家に行ったら、あの少女……雨宮香澄の自殺現場に出くわしたそうだ。きっと林美沙衣からも黒いオーラを感じて、偶然手に入れたんだろう……」

 モグラがふんっと鼻を鳴らした。

 「わかったもんじゃねえや。四聖といっても、どうせ二乗にじょう独覚どっかく界・羅漢らかん界)あたりだろ? やつらにしてみれば六道の魂なんて虫ケラみたいなもん、どうなろうと関係ないのさ……。だいたい一度逃げたあいつがいまさら何しに戻ってきた? 宣戦布告でもしにきたか?」

 メグルが再びぬいぐるみの山に体を沈めて、天井で白々と光る蛍光灯を見つめた。

 「二条美華から敵意は感じなかった……。彼女はただ、ぼくから奪った二条杏香の魔捕瓶を開けて欲しい。それだけのように感じた。あの瓶の蓋は、管理人と煉獄長しか開けられないから……」

 ふてくされたようにモグラがカーペットに寝転がった。

 「誰が好き好んでパンドラの箱を開けるやつがあるか! 二条姉妹は仇討あだうちに来たんだぜ?」 

 「もちろん簡単に開けるつもりはないけど、交換条件としてある情報をくれるそうだ」


 「ある情報……?」
 モグラが片肘をついて訪ねる。

 メグルはちらりと横目を向けて言った。

 「この子ども食堂、どうやら裏があるらしい」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★ 巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか? 死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。 終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。 壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。 相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。 軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

黄昏時のジャバウォック

鳥菊
ホラー
その正体を、突き止める術はなかった。 ※本作は小説家になろう様でも投稿しております。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...