二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
28 / 70
第5話 つながり

05

しおりを挟む
 「生き物の死体って……こんなにも愛情の詰まった料理になんて言い草……。いったいどんな育てられ方したら、お前さんみたいな憎たらしい子に育つんだろうね、まったく!」

 モグラがぷんすか腹を立てているうちに、すっかり食事を済ませてしまった少女が席を立つ。
 すると厨房から女性が声をかけてきた。

 「香澄ちゃん、もしよかったら、今日も配達頼めるかしら?」

 「今日はこれから用事があるので……ごちそうさま」

 「いいのよ。また今度、時間があるときにね」

 モグラがここぞとばかりに会話に入り込む。

 「なんと驚いた! 配達までなさってるんですか?」

 「なかには施設に来られない方や、顔をだしたくない方もいるので、そんな方には特別に配達をすることがあるんです」

 「大変なんですねぇ……あっ、おいら何でもやります! 手伝わせてください!」

 「まあうれしい! じゃあ食器洗いをお願いしようかしら。けっこう溜まってるの」

 「よろこんでっ!」


 自分と少女の食べ終わった食器を持って厨房に駆け込むと、女性に話しかけながら賑やかに皿洗いをするモグラ。
 いつのまにか携帯ゲームに夢中だった子どもたちも、その楽しげな雰囲気に引き寄せられて厨房に入り、モグラが洗った皿を拭いている。

 「あいつ、子どもは大嫌いって言ってたのに、意外と好かれるんだよな……」

 そんな光景を眺めながら、メグルがぬるくなったシチューをすすっていると、

 「きみ、食べるの遅いね」

 背後から声をかけてきたのは、さきほどの少女だった。


 「なんださっきの……。用事があるんじゃなかったんですか?」

 「もう済んだ。きみと話がしたくて」

 そう言いながら、少女はメグルの向かいの席に座った。

 「話があるならさっきすれば良かったのに……」

 「さっきは……坂田さんが居たでしょ?」

 ちらりと視線を厨房の中の女性に向けた。
 それからしばらく、少女は頬杖をついてメグルをじっと見つめていた。


 瞳の中を覗き込むよう、まっすぐに――。


 「何ですか? 訊きたいことでもあるなら、なんでもどうぞ」

 居心地の悪さを感じたメグルがそう言うと、少女は眉を緩めてこたえた。

 「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 厨房ではしゃぐモグラや子どもたちの声に混じって、シンクで跳ねる水の音や重ねられる皿の音が室内に漂っている。

 パイプ椅子の背もたれに寄りかかった少女は、コートのポケットに手を突っ込んだまま、静かに訊いた。



 「なんできみ、魔鬼と戦ってるの?」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★ 巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか? 死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。 終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。 壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。 相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。 軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ねぎ(ポン酢)
ホラー
短編で書いたものの中で、怪談・不思議・ホラー系のものをまとめました。基本的にはゾッとする様なホラーではなく、不思議系の話です。(たまに増えます)※怖いかなと思うものには「※」をつけてあります (『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)

黄昏時のジャバウォック

鳥菊
ホラー
その正体を、突き止める術はなかった。 ※本作は小説家になろう様でも投稿しております。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

処理中です...