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第4話 正体
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しおりを挟む「そんなの簡単! 管理人の味方になっちまえばいいのよ!」
魔鬼紳士の顔が一瞬にしてこわばる。
同時に背中から生えた二本の腕がどさりと床に落ちた。
異常に気づいた魔鬼紳士は、とっさに辺りを見回し、ショルダープレスの下を覗き込んだ。
そこにはコルク栓の抜かれた魔捕瓶がひとつ転がっていて、自らの尻から吹き出す黒い霧を、渦を巻きながら吸い込んでいた。
「こんなところにも魔捕瓶が……! きさま知ってて黙っていたな! 越界者として……いや紳士としての矜持はないのか、矜持はっ!」
「屁っ! 矜持だが楊枝だが知らねえが、そんなもん腹の足しにもなりゃしねえや! おいら紳士の服装に憧れただけで、魂まで売り渡したわけじゃねぇんだ! おととい来やがれ、べらぼうめっ!」
「覚えていろよ、きさまら……。必ず後悔することになるぞ……」
魔鬼紳士の最期の言葉と同時に、憑依していた体が、どさりと床に崩れ落ちる。
メグルはとっさに魔捕瓶に駆け寄り、蓋を閉めて叫んだ。
「魔鬼は封じた! モグラ急げ、救急車を呼ぶんだ!」
しかし憑依されていた男の状態を見たモグラは、静かに首を横に振った。
「いま息を引き取った。口から泡を吹いているから、たぶん毒を飲んで自殺した瞬間に憑依されたんだ。とても間に合わねぇ……」
メグルが床を叩きつける。
「ちくしょう! どんなに頑張って魔鬼は倒せたとしても、魔鬼に奪われた体は助けられないってのか!」
「落ち着けメグル、さっき病院に運んだ林杏香な、あの体は何とか助かりそうだぞ」
わずかな希望にすがりつくような表情で、メグルが顔を上げた。
その視線が何かを捉える。
「どした……?」
「ぼくのカバンが……浮いている……」
モグラがメグルの視線を追う。
ジムの割れ残った鏡の一部に、ふわふわと宙に浮いた肩掛けカバンが映っている。
「まさか!」
とっさにメグルが振り返った。
受付カウンターに身を隠していたはずの二条美華が、メグルのカバンをまさぐっていた。
「鏡に映っていないってことは、二条美華も魔鬼だったんだ! 逃がすなモグラ!」
とっさに走り出したモグラが、ジムのマシンに足を引っ掛け派手に転ぶ。
その隙に二条美華はジムから走り去っていった。
メグルはあわてて放り出されたカバンの中をまさぐった。
「しまった……! 魔捕瓶を奪われた!」
膝をさすりながら、モグラが体を起こす。
「落ち着けメグル。二条美華に逃げられたのは痛いが、魔捕瓶はいくらでもあるし誰でも使えるもんじぇねえ。一個や二個奪われたからって……」
しかしメグルは、がっくりと肩を落とした。
「違うんだ……。奪われたのは林杏香の体に憑依していた、魔鬼の魂だ……」
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