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第4話 正体
04
しおりを挟む「なんてことだ……。ぼくの読みが、すべて間違っていたなんて……」
茫然自失のメグルに、上腕二頭筋をぱんぱんに隆起させた店長が、五十キロのダンベルを両手に持ってにじりよる。
「美沙衣ちゃんが直々に案内したのは誤算だったが、まあいいぜ……。今度こそ確実に殺して、お前も焼き鳥にして喰ってやらあ!」
いまは反省している場合じゃない……。
メグルは懸命に頭の切り替えに努めた。
「……あなた、『餓鬼界』からの越界者ですよね?」
そして肩掛けカバンから魔捕瓶を取り出す。
「貪るは餓鬼。常に欲し常に飢え、その欲は止まることを知らず。他を妬み他を欺き、我欲を満たす為なら、他の命を奪うことも厭わない……」
メグルは手にした魔捕瓶を思い切り振って、小気味好い音を響かせながらコルク栓を抜き取ると、ごくごくと飲む真似をした。
「てめぇ……いったい何してやがる? こんなときに……!」
信じられないという表情で足を止めた店長に、ぷはぁ~っと息を吐いたメグルが笑顔でこたえる。
「タンパク質含有量九十八%、最高級のWPHプロテインですよ。戦いのまえに、あなたも飲みますか?」
「タンパク質九十八%……WPH……」
光に引き寄せられる昆虫のように、ふらふらと近づいてきた店長にメグルが魔捕瓶を投げる。
ひょいっと投げられた蓋の開いた瓶を、中身をこぼすまいと慌てて両手で受け取った店長は、当然のごとく五十キロのダンベルを足に落して悶絶する。
「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界の法を犯す者よ。管理人の名において、地獄界送りの刑に処す!」
店長は自ら受け取った魔捕瓶の中に、ぎゅるぎゅると排水口に流れ込む下水のような音を響かせながら、頭から吸い込まれていった。
「ブラボー、見事だったよ管理人のきみ」
カウンターに肩肘をつきながら見ていた魔鬼紳士が拍手をした。
「たったの二ヶ月……。こんなにも早くわたしの越界門を嗅ぎつけるとは、いい鼻をしている。よい条件の越界門だったが、きみの優秀さに免じて、ここは封鎖するとしよう。では失礼するよ……」
カウンターに置いてあったシルクハットを被り、背中越しに手を振ってジムを出て行こうとする男に、メグルが声をかける。
「おい待て。逃がすわけないだろ」
魔鬼紳士がぴたりと足を止めた。
ゆっくりと振り返りながら、地鳴りのような声をあげる。
「あああぁ~~~~ん? 逃げるぅうううう~~?」
呼び止めたことを後悔するほどの眼力に、メグルは一瞬たじろいだ。
「何かの聞き間違いかな? 管理人のきみの仕事は越界者の確保だろう? まさか魔鬼である私に楯突こうとする訳じゃあるまいね?」
メグルの額から一筋、汗が流れ落ちる。
「……後悔する瞬間もあるけど、もう決めてしまったんだ……ぼくは魔鬼を捕まえる」
魔鬼紳士は一転温和な表情に戻り、またパイプ椅子に腰をかけた。
「まあ、落ち着きたまえよ管理人のきみ。わたしは何も罪を犯していない。無罪の紳士を捕まえる訳にはいくまい?」
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