二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第4話 正体

03

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「おやぁ……? どうゆうことだね店長……人の気配がするぞ。邪魔者は消したんじゃなかったのかね?」

 薄闇のジムに、黒いスーツに身を固めた、がっしりとした大柄の男が入ってきた。

 続いて入ってきた男がメグルを見つけるなり怒鳴り声をあげた。

 「ああ、クソガキ! てめえなんで生きてやがる! 俺は確かにダンベルで思いっきり……ほらこんなに大きな血溜まりが!」

 よく見ると、その男は二階の居酒屋『鳥家族』の店長だ。

 黒いスーツの男が被ったシルクハットを受付カウンターに置きながら、大きなため息をついた。

 「すべき仕事もできないとは……。使えないやつは元の世界へ送り返すぞ」

 「待ってください魔鬼紳士まきしんし様! もう一度チャンスを!」

 魔鬼紳士と呼ばれた黒いスーツの男が、面倒臭そうに近くにあったパイプ椅子を引き寄せ、ジムの入り口を背に腰を掛けた。

 「四日後に儀式が控えているんだ。さっさと済ましてくれたまえよ」

 近づいてくる居酒屋の店長を見つめながら、メグルはひどく動揺していた。


(なんてことだ……林杏香の他にも魔鬼がいたとは……! あの黒いスーツの男を捕らえる罠は仕掛けてない。なんとかして策を練らないと……)


 「すいぶんとビビってるようだな。馬鹿なガキだぜ、おとなしく死んでいれば二度も殺されなくて済んだのに……」

 店長が口元を歪ませながら、気色の悪い笑みを浮かべた。

 「あの程度じゃ、ぼくは死なない……」

 メグルはこたえながらも、次の策を懸命に考えていた。

 「六階建ての校舎から落ちて、全身骨折、脳みそが耳から垂れるほど重体になったときも、数時間後に何事もなく蘇生した」

 魔鬼紳士の力強く太い眉が、ピクリと動いた。

 「ほう……」

 対して店長の顔は、みるみるうちに滅紫めっし色に変色していく。

 「むかつくぜぇ! 見るからに貧弱そうなガキのくせに、俺よりも肉体的に優れてるってトコがよう……!」

 メグルは店長と距離を取りながら、カバンの中の魔捕瓶を握りしめた。

 「もしかして、三ヶ月前の殺人事件もあなたの仕業ですか?」

 「我慢ならねぇんだよ……俺より発達した大胸筋を見せられるのは! 暇人は時間があるから汚ねえょなぁ……。こっちが汗水流して働いてる時もトレーニングしやがって!」

 「確か、犯人とされた男は逃亡中のはずでは……」

 「ジムで一番の筋肉量の多いやつを殺して、そいつと林美沙衣を取り合っている二番目に筋肉量の多いやつのせいにした。手にべっとり血を付けた男が、焦った様子で階段を駆け下り、何処かに走って行った……。そう警察に証言したのは、この俺だからな……」

 かたわらに置かれたダンベルラックに、滅紫めっしに変色した腕を伸ばす。
 五十キロのダンベルを一個ずつ、両手で一気に持ち上げた。

 「逃亡中とされている二番目のやつも俺がさらって殺したんだぜ。解体して居酒屋の冷蔵庫にぶち込んで、ときどき焼き鳥に混ぜて客に出してやったよ。ざまあねぇよなぁ……自慢の大腿四頭筋が、硬くて不味そうに喰われてたぜ!」

 「まさか、不動産屋の門田熊雄を殺したのも……」

 「まえからあの男にはムカついてたんだよ……。俺の唯一の楽しみはよぅ、夜中にこっそりジムに忍び込んで、毎晩肉体を鍛え上げることだ。ここは俺だけの楽園なんだ! だのにあの男がちょくちょく内見者を連れてきやがるから、今日は先回りしてビルから突き落としてやったぜ! 俺だけのジムが、また誰かのものになっちまうからなぁ~っ!」

 「なんてことだ……。ぼくの読みが、すべて間違っていたなんて……」

 茫然自失のメグルに、上腕二頭筋をぱんぱんに隆起させた店長が、五十キロのダンベルを両手に持ってにじりよる。


 「美沙衣ちゃんが直々じきじきに案内したのは誤算だったが、まあいいぜ……。今度こそ確実に殺して、お前も焼き鳥にして喰ってやらあ!」


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