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第17話 女王の想い
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しおりを挟むその世界は、霧が深く立ちこめる森のなか。
緑色の樹皮を持つ巨木が天に向かって何本ものびている。はるか上空にある巨大な葉の重なりをぬって、幾筋もの乳白色の光がさし込んでいる。
「ああ、オラキル。ここは子どものころに過ごした、アルア星の森にそっくりですね」
女王はステンドガラスのように色鮮やかに透きとおる背中の羽根をひろげた。それは木々のあいだからさし込む光を通し、地面に七色の光を映し出す。
きらきらと光る鱗粉をふりまきながら、女王はふわりと飛び上がった。
わたしも擬態スーツを脱いで背中の羽根をひろげると、光の軌跡を残しながら優雅に宙を舞う女王のあとに続いて飛んだ。
そのとき――。
「リリル、止まって!」
わたしは急いで女王の手をつかんだ。
すぐ目の前を、トビマンタの群れが疾風のごとく横切ったのだ。
二十センチほどのひし形の体をもつトビマンタは、ヒレを翼のように羽ばたかせて空を飛ぶ。まるでじゃれるように女王のまわりをぐるりと飛んだあと、また上空に飛び去っていった。
「あれは……」
「はい。陛下が学生のころ、タラサ星開発エリアから、命がけで救い出したトビマンタです」
「あんなにたくさん……」
「タラサ星は経済成長がいちじるしく、その後も環境が激変しましたから、トビマンタは絶滅してしまいました。いま生き残っているのは、この世界の中だけ。陛下が救った一対のつがいから増えた、彼らだけです」
「やはり絶滅してしまいましたか……。しかし、トビマンタは海がないと生きていけないはず。ここには海が見当たりません」
「見てください」
わたしは地面を指さした。大きな池が、地響きをたてながらゆっくりと移動している。
「あれはアケロン星のドクイケセオイガメです。背中の甲羅が池のようになっていて、そこに体内で作られた、鉄をも溶かす強酸の液体を溜めて身を守ります。しかし、この世界へ来て環境が変わったためか、体内で強酸の液体が作られなくなってしまいました」
「それでは、ほかの生物に補食されてしまうでしょう?」
女王が言った、ちょうどそのとき、ドクイケセオイガメの前に、ふたつの首を持つ巨大なワニが現れた。セベク星のフタクビカイマンだ。
フタクビカイマンが、ふたつの大きな口をひろげ、ドクイケセオイガメの首めがけて襲いかかろうとした瞬間、上空から垂直に急降下してきたトビマンタの群れが、フタクビカイマンの目玉めがけて一斉に飛びかかった。
ふたつの頭をトビマンタの大群におおわれたフタクビカイマンは、頭をぶんぶんとふりまわしながら退散していく。
戦いを終えたトビマンタたちは、ドクイケセオイガメの甲羅の池に、次々と飛び込んでいった。
「ドクイケセオイガメはいま、海水にとても近い成分の液体を体内から出して、背中の池に溜めているのです。海水がないと生きていけないトビマンタと、自分だけでは身を守れなくなったドクイケセオイガメ。育った星も環境も違う生物が、新しい世界で、お互いを助け合って生きているのです」
すると突然、女王は顔をゆがめて上空に飛んで行ってしまった。
「……陛下?!」
わたしはあわてて追いかけたが、太い木々から生える大きな葉に邪魔され、その姿を見失ってしまった。
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