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第14話 復讐のとき
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しおりを挟む「嫌い……。大嫌いな街の灯り……。こんなに綺麗なのに、こんなにいっぱいあるのに、ここにわたしの居場所はないっ!」
トモミの頬に涙がつたった。
瞬間、強烈な音とともに船内が激しくゆれた。
わたしたちは床に叩きつけられ、コントロールルーム全体をつつむスクリーンに、街の灯りと夜空に浮かぶ満月がぐるぐると回転した。
再び衝撃を受け、わたしたちは部屋を転がった。転がりながら、わたしは壁に叩きつけられそうになったトモミの腕をつかんだ。
ドーム状のスクリーンに映し出された夜空に、三つの光が横切る。
銀河連合の小型攻撃船だ。
「おのれ銀河連合め、見張っていたのか!」
キリル王子が操舵輪にしがみつき、よろめきながら立ちあがる。そして操舵輪の中心で金色に輝く、蛇の紋章が描かれたボタンを力いっぱいに叩きつけた。
そのとたん、スクリーンに映る夜の闇は吹き飛ばされるように消え去り、あたりは真昼のような景色に変わった。闇夜を切り裂く強烈な炎と光を放つイヴは、まるで真夜中に突如現れた、太陽のように見えただろう。
「きさまらに教えてやろう。かつて銀河を恐怖で支配した、キリ星人の力を!」
イヴは船体に無数にあいた穴から高熱の炎を吐き出し、高速で回転しながら銀河連合の小型攻撃船に向かって飛んだ。小型攻撃船はイヴにふれるまでもなく、灼熱の炎に包まれて焼け落ちていく。
「きさまらに滅ぼされたキリ星人の恨みの炎だ! 焼かれて消えろ!」
はるか上空に逃げ飛んだ残りの二機も、追いかけるイヴの炎に巻かれて大爆発した。
すべてのスクリーンがまっ赤な炎で埋めつくされ、操舵輪にしがみつくキリル王子の背中だけが、まっ黒な影となって浮かび上がる。
キリル王子の狂ったような笑い声がコントロールルームに響き渡るなか、トモミがわたしの腕にしがみついて震えた。
「ハカセ、こわい……」
そのとき、スクリーン上部に大きく満月が映し出された。その影から、真珠色に輝くピラミッド型の巨大な船体が、ゆっくりと姿を現す。
キリル王子がスクリーンを見上げている。
いやな予感がした。
「王子、いまならまだ間にあう。早く銀河系外へ逃げましょう!」
なおもキリル王子は、銀河連合の母船を睨み続けている。
「無駄です、王子。かなうわけがない。あの戦争から、五千年以上もたっているのです」
わたしはキリル王子を落ち着かせようと、静かに、諭すように言った。
「わかっているよ博士。だが一族の仇を目の前に、キリ星人として、いや、王子として……、逃げるわけにはいかないのだ!」
この星から地球人を連れ出して銀河系外へ逃げる――。そんな計画は、キリル王子の頭から消え去っていた。
いまや王子は、復讐の鬼と化していた。
イヴは強烈に加速しながら上空に舞い上がり、一気に地球の大気圏から抜け出した。
「やめろ王子! 死にいくだけだ!」
「博士! キリ星が燃えおちるなか、父はわたしに生きろと言った。生きてキリ星人を導けと……。わたしは父の最期の言葉を胸に刻み、キリ星人のためになんでもした。地球人さえ滅ぼそうとした……。
博士、あなたにわかるものか! この星までもがキリ星人を受け入れないと知ったとき、どんな思いで地球人との合成を決意したか! あのとき、すでにキリ星人の歴史は終わっていたのだ……。あとは最後のキリ星人であるわたしが、どう散るかだ!」
イヴはさらに高熱となる、碧い炎を吐き出した。
眩しいほどに碧く光る長い炎の尾を引いて、母船めがけて加速するイヴ。その姿を見たものは、さながら巨大な龍と見紛うことだろう。
銀河連合の母船がゆっくりと巨大な船体をこちらに向け、戦闘態勢に入った。無数の光が底面にある発着ドックから放出されて左右にひろがる。銀河連合の小型攻撃船群だ。
「銀河大戦のあやまちを、また繰り返すというのか……」
その光景を、わたしは絶望的な気持ちで見つめていた。
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