緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第14話 復讐のとき

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 アユムの体に乗り移ったキリル王子は、キリ星の攻撃船、イヴを起動させた。
 コントロールルームに低い音が響いて、地下神殿の景色がぐらりとゆれる。
 神殿の中で、イヴがちゅうに浮いたのだ。

「五千年の時を超え、再び地上に出る! 空間転移装置くうかんてんいそうち、起動!」

 足の裏から振動が伝わる。
 広間全体をつつむスクリーンが一瞬まっ暗になったあと、天井には大きな満月が輝き、床には草原がひろがった。イヴが地面をすりぬけ、緑が丘の上空に移動したのだ。

 トモミはうつむいたまま、キリル王子のとなりに立っている。わたしが地球人ではないことがばれてから、トモミがわたしに目を向けることはなかった。

 イヴはさらに上空へ移動し、足もとのスクリーンが街のあかりで敷きつめられた。

「さあトモミ、復讐ふくしゅうのときだ。きみの嫌いなこの街の夜景は、きみの手で破壊させてやる」

 キリル王子の言葉に、わたしは耳を疑った。

「なんだって? 何をする気です、王子!」

「言ったでしょう、博士。銀河連合に絶滅させられるくらいなら、わたしのかわいい地球人は、わたしの手でほうむると」

「本気ですか? 五千年ものあいだ、あなたが守り続けたキリ星人の子孫ですよ!」

「もちろん本意ほんいではありません。混乱にじょうじて地球から脱出するためには、多少の犠牲ぎせいはいたしかたないのです。この街だけですよ、破壊するのは……」

 イヴが復活してからというもの、キリル王子は、まるで人が変わったように冷徹れいてつになってしまった。

 トモミの家で遭遇そうぐうした地球人といい、キリル王子といい、信じて守ろうとしていたものたちが、ことごとくわたしを失望させていく。

 貴族院きぞくいんの老人たちが、正しかったというのか……?

 意気消沈いきしょうちんするわたしをよそに、トモミまでもが、ゆっくりと操舵輪に近づいていく。


「トモミ……」

 わたしの呼びかけに、トモミは背を向けたまま、ひとり言のように小さな声でつぶやいた。

「わたし、誰もいない家を見たとき、まっさきに浮かんだのはハカセのことだったよ。ハカセのところに行くことしか頭になかった。だってわたしには、もうハカセしかいないもの……。ハカセとなら、あたたかい灯りを……、わたしの居場所をつくれるかもしれない。そう思ったのに……」

 そして操舵輪に、ゆっくりと手をかけた。


「嫌い……。大嫌いな街の灯り……。こんなに綺麗きれいなのに、こんなにいっぱいあるのに、ここにわたしの居場所はないっ!」


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