緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第13話 アユムの正体

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 地下の泉の前でトモミはようやく足を止めた。
 じっと泉を見つめている。

「まさかトモミ、この泉の中に……」

「大丈夫。何が起きても息を止めていれば平気だから、わたしのあとに続いて」

 そう言うなり、トモミは地下の泉へ飛び込んだ。

 以前、ここでおぼれかけた記憶がよみがえる。しかしトモミの姿が水中に消えるのを見て、わたしも急いであとに続いた。

 泉の中を進んでいくと、とつぜん足元に穴が空いたように、いきおいよく水底みなそこに吸い込まれる。わたしはトモミに言われた通り、ぎゅっと目をつぶり息を止めた。

 しばらくして目を開けると、わたしは気を失うことなく神殿に立っていた。神殿は、以前のように暗闇に包まれてはいない。

 ふいにわたしは手をにぎられた。いつのまにか、トモミがとなりに立っていたのだ。

「驚いた? これが龍の玉の正体よ。本当にあったのよ」

 わたしはトモミが龍の玉と呼んだ、紅く輝くキリ星の攻撃船を見上げた。

 見上げながら考えた。

 なぜトモミは神殿の場所を知っているのだろうか?
 なぜこれが龍の玉の正体だと、知っているのだろう……?

 困惑こんわくするわたしの手を引いて、トモミが神殿の長い階段をかけ上がる。
 階段を上りきると、直径一キロメートルもある巨大な攻撃船イヴは、すぐ目の前だ。

 壁のように立ちはだかるその船体に、トモミが手をかざした。

「我はキリ星人の血を引く者なり。我を導け」

 すると目の前に、人が入れるほどの大きさの穴が、するっと口を開けた。

「さあ入って。大事な話があるの」

 まるで自分の家にでも招待するかのようにそう言うと、トモミは暗闇に包まれた船内に、ためらうことなく足をふみ入れた。

 おそるおそる、トモミの後に続く。
 暗く長い通路が、ドーム状の広間に通じていた。

 ここが船体の中心なのだろうか。天井、壁、床、すべてに張りめぐらされたスクリーンの光で、広間全体がぼんやりと明るくなっている。


「龍の玉は宇宙からやってきた宇宙船だったの。ここがこの船のコントロールルームだよ」

 何もかも知っているような口ぶりで、トモミが説明した。

 ふとわたしは、部屋の中心にある船の操舵輪そうだりんのようなハンドルの前に、ひとりの小柄こがらな男が立っているのに気がついた。
 金色の蛇の刺繍ししゅうがほどこされた、大きな黒いマントを羽織はおっている。
 背丈に合ないのか、マントの下半分を床に引きずっていた。

 男が操舵輪で何かを操作すると、ドーム状の広間全体に張りめぐらされたスクリーンが、かなり昔に使われていた古代銀河文字で埋めつくされ、地上で感じたのと同じ地響きが起こった。


「数秒だけだが、空間転移装置くうかんてんいそうちも作動できるようになった。これで、きみの大事な緑が丘を破壊せずに地上に出れそうだよ……。ところで、どこへ行ってたんだい、トモミ?」

 ふり返った男の顔を見て、わたしは息をのんだ。


「アユム……」


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