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第12話 ゆがんだ月
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しおりを挟む「パパがひとりで逃げちゃって、わたしにはもうママしかいなかった……。ママだけがわたしの居場所だった。それなのに……、ママまでわたしを見捨てて行っちゃうなんて……」
抱えたひざのあいだから、ぽたぽたと涙が落ちる。
その涙を見たわたしは、すっかり忘れていたトモミとの出会いを思い出した。
ぎらぎらと照りつける大陽のもと、鮮やかな緑色の地平線にゆらめく白い人影。
空を見上げながら、とぼとぼとひとりで歩く女の子。
見つかってはまずいと小型宇宙船の上で右往左往していたわたしに気が付いた女の子は、手のこうで目をごしごしふくと、すごい速さでこちらに走ってきた。
わたしは突然の出来事に逃げる間もなく、その場で腰を抜かしてしまった。
真っ白なワンピースのすそを、ひらりとひらめかせて小型宇宙船をかけ上がった少女は、わたしを見おろすなり、こう言った。
「……あんた、だれ?」
「わ、わ、わたしは、ここに住む人間ではない……。ぎ、銀河的に有名な、博士……」
「……別の街に住んでる……ハカセくん……?」
どこの誰かもわからないわたしを不思議そうに眺めつつも、
「わたしは友美。よろしくね!」
弾けるような笑顔で手をさし出してくれたトモミ。
いま思えば、そのときのトモミの目は、泣きはらしていたような気がする。
トモミは少しだけ顔を上げて、緑が丘の草原を愛おしそうに見つめた。
「学校のみんなとは、もう絶対に話さないって決めたけど、本当は大好きなこの街で、いきなりひとりぼっちになった気がして、とっても寂しかったんだ。そんなときは誰もいないこの丘に来て、いつもひとりで泣いていたの……。
そしたらある日とつぜん、この丘にハカセが現れて、ハカセはわたしの違いを全然気にもしないで、熱心に話を聞いてくれて……。とってもうれしかったよ。わたしのために空から降りてきた、天使みたいに見えた……」
涙があふれ出して、トモミはまた、抱えたひざに顔をうずめた。
「いいんだよ、思いっきり泣いても。もうぼくに涙をかくさないで」
するとトモミは、せきを切ったように泣き出した。
おさない子どものように、大声で――。
やわらかな月明かりに照らされた草原が、トモミをあやすように静かにゆれる。
わたしは空を見上げた。
夜空に輝く満月が、また、ぐにゃりとゆがんで見えた。
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