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第10話 御前会議
03
しおりを挟むドアを開けると、長い机の両側に五人ずつ、銀河連合の主要な惑星の代表たちが座っていた。
彼らが貴族院と呼ばれる老人たち。
みな無言で、驚いたのような、困惑したような顔でわたしを見つめている。
わけはすぐにわかった。わたしは地球人型擬態スーツを着たままだった。わたしはその視線を無視して、ドアのすぐ手前の空いているイスに座ろうとした。
そのとき――。
「女王陛下のお見えである!」
威厳をこめた若い女性の声に、年寄りばかりの貴族院の面々が飛び上がるようにして立ちあがった。そして部屋の奥にある、透けるほどにうすい、ブルーの幕に向かって敬礼した。
幕の中央には、銀河を模した渦巻き型の王家の紋章が、真珠色に輝く繭糸で刺繍されている。幕の奥に女王の玉座があるのだ。
わたしも貴族院たちの様子をまねて、幕に包まれた玉座に敬礼する。
しばらくして幕の奥に現れた人影は、とてもゆっくりとした所作で、中央に置かれた玉座に腰をおろした。すると、そばに控えている親衛隊長とおぼしき人影が、また威厳をこめて声を張り上げた。
「一同、楽にせよ!」
貴族院の老人たちが一斉にイスに腰をかける。タイミングを合わせられずに、のろのろと座ってしまったわたしは、またみんなから、きびしい視線を向けられた。
銀河連合において親衛隊長の言葉は絶対だった。彼女の言葉は、直接、会話することのない女王陛下のお言葉でもあるからだ。
貴族院の老人たちでさえ、彼女の言葉に逆らうことは許されない。
長い机の先頭に座っている、いかつい声の男が、お決まりと思えるあいさつを始めた。
この男が銀河連合議会の議長であり、銀河連合軍の将軍でもあるジランダ。地球のサイを赤黒くしたような大きな体を持つ、アッキド星人だ。
女王への助言を務める貴族院は、さきの銀河大戦で銀河連合軍として戦った星々の代表たちで構成されている。アッキド星人の議長も、そのとなりに座る地球のヤモリにそっくりなコルト星人も、いうならば銀河大戦の英雄たちの子孫。キリ星人の恐怖の歴史があるかぎり、彼らの権威はゆるがないだろう。
「オラキル博士!」
とつぜん名前を呼ばれて、わたしはきょとんと辺りを見まわした。みな、いぶかしげな視線をわたしに向けている。
「オラキル博士、報告を!」
ジランダ議長がうなるような低い声で続けた。
貴族院の面々を観察しているあいだに、あいさつが終わっていたようだ。
わたしは席を立ち、報告した。
「地球での調査の結果、外来生物の存在は認められました。ここに捕獲しています」
会議室がざわめくなか、わたしは『全宇宙生物図鑑』を起動させ、図鑑の背をぽんっと叩いた。
机の上にクモが落ちる。
とつぜん観衆の視線にさらされてパニックでも起こしたのか、クモはそこらじゅうを、かさかさと走りまわった。
「きゃ!」
一瞬、聞こえた女性の小さな悲鳴。あきらかに親衛隊長の声ではない。
「無礼であろうが!」
ジランダ議長が怒鳴った。しかし、その大きな体はイスから転げ落ちていた。
見れば貴族院の面々も、小さなクモに悲鳴を上げながら部屋中を逃げまわっている。
「ええい、さっさと捕まえんか!」
わたしは怒号と悲鳴であふれかえる会議室を走りまわり、図鑑をかぶせてクモを捕獲した。
ほっと胸をなでおろし、悪態をつきながら席にもどる貴族院たち。そのなかで机にひじをつき、手を組みながら微動だにしなかった、青白い顔をした細身の男が静かに言った。
「ほかにもいただろう? ドクター・オラキル」
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