緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第8話 龍の玉

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「残念ですが博士、キリ星人の子孫しそんは、この星のいたるところにいるのです」

 まさか地球のネコがキリ星人だとでも言うのだろうか。しかし、キリ星人がネコ型星人だったという言い伝えは聞いたことがない。

 いぶかしげに見つめるわたしの目を、ステネコはまっすぐに見つめ返し、静かに言った。


「地球人こそがキリ星人の子孫。地球人こそが、この星の生態系せいたいけいを左右するまでに繁殖はんしょくした、外来生物なのです」


 予想もしなかったその言葉に、わたしは頭を殴られたような衝撃に襲われた。
 ステネコの話がもし事実ならば、トモミとアユムは、銀河中で悪魔のように怖れられた、キリ星人の子孫ということになるからだ。

「博士。我々はあの戦争で勝利を目前もくぜんにしていた。まさにそのとき、絶対に動くはずがないと思われていた女王が動いたのです。禁忌きんきの技術『惑星移動装置わくせいいどうそうち』を使い、キリ星を我々の太陽に接近させたのです。
 王は死に、その息子である王子は、体を焼かれながらも、生き残ったたみを巨大な輸送船に乗せて、燃え上がるキリ星から脱出しました。宇宙最強と怖れられたキリ星人が、はじ外聞がいぶんもかなぐり捨てて、銀河系を逃げ回ったのです。
 銀河連合に追撃ついげきされ、ぼろぼろになりながらも銀河の果てまで逃げましたが、ついにこの地球をかすめたとき、我々の輸送船は炎に包まれ大爆発。その爆発にまぎれて地球へ逃げのびたのが、この攻撃船イヴです。
 死を覚悟した仲間たちから、押し込まれるようにしてイヴに乗船した、わずか数百名のキリ星人最後の生き残りたちは、この星を第二の故郷として、キリ星の歴史をつなぐことに決めました」

 にわかには信じがたい話だった。わたしの知っている歴史、誰もが知っている銀河連合の歴史では、『傲慢ごうまんなキリ星人は強大な力を制御できず、自らの炎に焼かれて絶滅した』と学んだ。

 絶対的な平和主義者である女王と、その信念のもとにつどった銀河連合が、ひとつの星を破壊し、その種族を絶滅にまで追いやったなんて、とても信じられない。


「しかし、この星にはすでに文明を持つ生物がいました。地球人です。ひとつの星に、ふたりのあるじがいれば、いずれ争うことになる。我々はイヴを使い、彼らを焼き払いました。北極と南極の氷を溶かして大洪水をおこし、彼らの大陸を沈めました。かわいそうなことをしましたが、我々も生きるために必死だったのです。
 ですが、ようやく手にした第二の故郷でも、我々は生きることを許されなかった。この星の環境になじめず、次々と仲間が死んでいったのです。我々はさとりました。この星は異星人である我らキリ星人のためではなく、この星で誕生した地球人のためにあったのだと……。我々はみのりない計画で地球人を滅ぼしたことを、深く懺悔ざんげしました。
 そこに朗報ろうほうが飛び込んできました。地球人がまだ生き残っていたのです! 地球人全滅に反対していた数名の仲間が、地球人に大洪水が来ることを知らせていたのです。
 彼らはイヴをあやつる我々のことを、大陽から来た神と信じて怖れうやまい、よろこんで我らキリ星人と合成することを望みました。新たな地球人として生まれ変わることを、受け入れたのです」


「キリ星人と合成? 新たな……地球人?」



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