緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
23 / 63
第8話 龍の玉

02

しおりを挟む


「博士、ゆかいな仲間たちとの楽しい洞窟探検も、ここが終点です」

 とつぜん聞こえた声にふり返る。暗闇に、黄緑色に光る目が浮かんでいた。

「楽しい洞窟探検って……。わたしは死にかけたんだぞ! 説明しろステネコ!」

 わたしの怒鳴り声が暗闇の中をこだまする。ここはとても広いようだ。

「ですから、ここが伝説の龍の玉が眠る地。……五千年前に作られた、我らの神殿です」


 バンッと、はじけるような音とともに、わたしはまぶしい光に包まれた。

 暗闇になれた目のせいで、あたり一面まっ白に光って何も見えない。
 それでも少しずつ、まっ白な世界に輪郭りんかくが浮かんでいく。

 少しずつ、少しずつ……。
 神殿の姿が、わたしの目の前に現れていった。

 果てしなく続く大理石の白い床。
 かすむほど高い天井に向かってそびえ立つ、二本の太い石柱せきちゅう
 その石柱にはさまれて、まっすぐにのびる長い階段――。

 そして、その階段のさきに、それはあった。

 祭壇さいだんにまつられるように置かれた『龍の玉』は、わたしの想像とはまったく別のものだった。

 視界を埋めつくすほどの圧倒的あっとうてきな大きさで、遠く離れたこの場所にいてさえ、押しつぶされそうなほどの威圧感いあつかんを放っている。

 ルビーのように紅く輝く球状きゅうじょうの船体に埋め込まれた、金色に輝く蛇の紋章もんしょう

 それを見たとき、わたしは頭から急激に血の気が引いていくのを感じた。


「これは、もしや……」

「そうです博士。これが、かつてこの星を焼きつくした龍の玉の正体。そして、銀河連合をも壊滅かいめつ寸前すんぜんにまで追いやった悪魔の一族、キリ星人の攻撃船です」


 キリ星人――。

 銀河連合でも神話になりつつある、古い歴史に出てくる一族だ。

 銀河の果てにありながら、急速に科学力を発展させたキリ星人。その発展はとどまることを知らず、ついには銀河連合をもしのぐ、銀河一の軍事大国にのしあがった。

 その力を背景に銀河連合への加盟をのぞんだキリ星人は、同時に銀河系の頂点である女王の退陣たいじんを迫り、そのを明け渡すよう要求する。

 これに激怒した銀河連合は聖戦せいせんしょうしてキリ星人に宣戦布告せんせんふこく

 しかし、のちに銀河大戦と呼ばれるその戦いで、銀河連合軍の星々は、キリ星人の圧倒的な力の前に、次々と降伏こうふくさせられてしまう。
 そのときに使用された、キリ星人の最強兵器……。


「攻撃船イヴです」

 いつのまにかステネコは、わたしのとなりに二本足で立ち、船を見上げていた。

「直径一キロメートル。高速に回転しつつ、船体にあいた無数の穴から強力な火炎を放ち、船ごと突進して攻撃します。この船一隻で、小さな惑星の文明ひとつくらいなら容易よういに壊滅できるでしょう」

 圧倒されているわたしを見て、ステネコは笑うように続けた。

「博士、ご安心を。この船は反重力装置はんじゅうりょくそうちが壊れていて、いまは飛べません」


「きみは何者なんだ? なぜ、地球にこんなものが……」

「やはり、博士は何も知らされていないようですね」

 ステネコはわたしに向き直り、真剣な面持おももちで言った。


「わたしはキリ星人最後の生き残り。そしてこれは、いまは亡き惑星キリから脱出した、最後の船なのです」



しおりを挟む

処理中です...