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第8話 龍の玉
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しおりを挟む糸を切られた操り人形ようにくずれ落ちたトモミは、そのまま気を失ってしまった。
暗闇に光る目は、じっとこちらを見すえながら、ゆっくりと近づいてくる。
「まだ帰るには早すぎます。目的の物は、この先です」
ステネコだ。
妙に静かに、わたしを睨みつけるようにして言った。
「おどかすなよステネコ! トモミが気絶しちゃったじゃないか!」
ステネコは、すくっと二本足で立ち上がり、冷たい目でトモミを見やると、
「この先は、あなたにさえ来ていただければ結構。ついて来てください」
と言って、地下の泉に向かって歩きだした。
「ついて来いって……。まさか、その泉の中へ?」
ステネコは何でもないように水に足を踏み入れ、泉の中を進んでいく。
わたしはトモミを洞窟の壁に寄りかからせ、その手に懐中電灯を持たせると、背負った『全宇宙生物図鑑』を背中からおろした。
「パワーオン、オープン、ライト!」
宙に浮いた図鑑が、ぱたりと開き、ぼわんと音をたてて紙面を光らせる。
わたしが歩くと、図鑑は鳥のようにページを羽ばたかせ、辺りをぼんやりと照らしながらついてくる。その明かりをたよりに、わたしは急いでステネコのあとを追った。
ばしゃばしゃと激しく水しぶきをあげて、地下の泉に駆け込む。
見れば、水面から頭だけを出したステネコが、黄緑色に光る目でこちらを見つめていた。
「こちらです、博士」
そう言うやいなや、ステネコの頭は、とぷんと水の中へ沈んでしまった。
「待て、ステネコ! 早まるな!」
あわてて駆け寄ったとたん、とつぜん水深が深くなっていたのか、わたしの体もすっかり水中に沈んでしまった。
し、しまった! わたしは泳げないんだ……!
水面に向かって必死にもがいたが、まるで吸い込まれるように底へ底へと沈んでいく。
なんてことだ。こんな辺境の星の誰も知らない洞窟のなかで、溺れ死んでしまうなんて……。
水面に淡く光っていた『全宇宙生物図鑑』が、水中に飛び込んでくるのを見たのを最後に、わたしの体と意識は、暗い水底に沈んでいった。
*
ふと目が覚めたとき、わたしは冷たい床にうつ伏せに寝ていた。
水の中ではない。
気持ちよく息が吸える。
驚いたことに、髪も服もまったく濡れていなかった。
ぐるりと辺りを見まわすも、そこは目を開けても閉じても変わりがないほどの、まっ暗な空間だった。
わたしは……死んだのか……?
そのとき、はるか頭上からばさばさと羽ばたく音が聞こえて、わたしは見上げた。
夜空に輝く、小さな星のように見えてきたのは『全宇宙生物図鑑』。
ようやくわたしのそばまで降りてくると、ぼんやりと足もとを照らしだした。
白くつややかに光る、大理石の床だった。
「博士、ゆかいな仲間たちとの楽しい洞窟探検も、ここが終点です」
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