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第7話 洞窟で見つけたものは?
02
しおりを挟む下り坂はさらにきつくなり、うっすらと地面に水が流れている。
「足もと気をつけて。滑りやすくなってる」
「じゃ、じゃあ、手を貸してよ」
恥ずかしそうに出したトモミの手を取り、急な坂を下る。
わたしはときどき、周囲をうかがいながら歩いていた。一本道なので迷うことはなかったが、案内役のステネコは、いったい、どこへ行ってしまったのだろう?
「ちょっと、ハカセ……。ごめん」
下り坂が終わりを見せたころ、トモミがもじもじしながら言った。
「なに?」
「あのね。その……」
「どうしたの?」
「……トイレ、行きたい」
「いいよ。ここで待ってる」
「ええー、まっ暗じゃん。怖いよ」
「わかった。ずっと照らしててあげるから」
言ったとたん、頭をはたかれた。
トモミはわたしから懐中電灯を取り上げると「絶対について来ないでね!」と怒鳴りながら、洞窟の奥へ走っていった。
懐中電灯の光の柱が左右にゆれながら離れていく。それを見計らって、わたしは『全宇宙生物図鑑』を背中からおろした。
「パワーオン!」
わたしの言葉に反応して、図鑑が宙に浮く。
「オープン!」
ぱたりと図鑑が開く。
「ライト!」
紙面がモニタのように光を発する。ぼんやりとした光が辺り照らした。
「更新されたページへ!」
ぱらぱらとページがめくられ、あるページでとまる。
そこには、さっきはさんだクモの写真が載っていた。写真のクモは、もぞもぞとうごめいている。
「キーボード!」
図鑑の前に、緑色に光る文字盤が現れる。
「まさか、こんなところで出会えるとはね……」
わたしは文字盤のキーを叩いた。写真の下に文字が浮かび上がっていく。
「クモ――地球に生息する宇宙からの外来生物。アラクネ星人の古い祖先にあたる……と」
そこまで文章を入力したとき、洞窟の奥から光の柱がゆれながら近づいてくるのが見えた。
「パワーオフ!」
わたしは急いで、図鑑を背中に背負った。
「ハカセー、すごいの見つけたよ!」
トモミは大声で叫びながらもどってくるなり、わたしの手を取り走りだした。奥へ進むほど洞窟の天井は高くなり、広さもましていく。
「見て、あそこ!」
トモミが懐中電灯で前方を照らした。
そこには黄土色の地面に、エメラルドグリーンから鮮やかな空色へと変わっていく、美しい泉がひろがっていた。
懐中電灯の光が水面に反射して、洞窟の天井や壁全体に、ゆらゆらと揺らめくやわらかな光を散りばめている。
「緑が丘の下に、こんな世界がひろがっていたなんて……」
「ここが行き止まりみたいね。龍の玉はなかったけど、冒険の終着点がこんなステキな泉でよかった!」
トモミがわたしの手を、ぎゅっとにぎった。
「この泉のこと、アユムには内緒にしない? ふたりだけの秘密の場所にしよう!」
「そうだね……。アユムはたぶん、怖がってここまで来られないだろうし……」
満足気なトモミとは裏腹に、わたしは少々、腑に落ちなかった。
ステネコは確かに『龍の玉』があると言っていた。
世界を焼きつくした龍の玉が、本当にあるとは思っていない。だが、せめて伝説のもとになった『何か』をつきとめて、それをトモミとアユムへの恩返しにしたかったのだ。
「……そろそろ戻ろうか? アユムも心配しているだろうし」
ふたりへの恩返しは、また考えるとしよう……。
わたしは気を取り直して、うっとりと地下の泉を眺めている、トモミの背中に声をかけた。
「そうね……」
名残惜しそうにふり返った、トモミの笑顔――。
その笑顔が、一瞬にして凍りついた。
クモを見たときとはまったく別の叫び声をあげて、トモミがその場にくずれ落ちる。
驚いてふり返ったわたしの目に、暗闇の中で怪しく光る、不気味な目が映った。
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