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第7話 洞窟で見つけたものは?
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しおりを挟む「あの話、信じる?」
いつになく弱々しいトモミの声が、まっ暗な洞窟に響く。トモミはわたしの背中に手をあてながら、ぴったりと張り付くように、うしろを歩いていた。
「あの話って?」
道が悪いうえに下り坂になっているので、わたしは足もとだけを照らして注意深く歩いていた。背中にトモミの手の温もりを感じている以外、お互いの顔すら見えない。
「だからその、龍の玉のタタリ? 城が一夜で燃えつきたとか、工事が謎の事故で中止になったとか……」
「あんなの作り話だよ。トモミだって笑い飛ばしていたじゃないか」
「そうだけど……」
それからトモミは黙りこんでしまった。口には出さないが、かなり怖がっているようだ。
できることなら、わたしだってトモミの恐怖を吹き飛ばすような科学的な説明をしてあげたい。伝説や言い伝えには、必ずもとになった『何か』があるからだ。だが、その証拠がまだ見つからないのだ。
洞窟は奥へ行くほど広くなり、ごつごつとした黒い岩肌から、なめらかでしっとりと濡れる、黄土色の岩肌に姿を変えていく。
わたしは懐中電灯で天井を照らしてみた。さっきとは打って変わって高くなった天井から、太い石の柱が何本もつららのように垂れ下がっていた。
石のつららから落ちる水滴の音だけが、洞窟の中に静かに響いている。
「……そうかっ!!」
不意にに叫んだわたしの声が、凄まじい音で洞窟の中を反響した。
「きゃあ! な、なに? 急に大きな声ださないで!」
トモミがわたしのキモノのそでを引っぱりながら叫んだ。
「ここはたぶん、鍾乳洞なんだ」
「ショウニュウドウ?」
「うん。この丘の地質は、おもに石灰岩でできているんだ。石灰岩は酸で溶ける性質をもっている。だから弱い酸性をふくむ雨水なんかが地面にしみ込むと、長い年月のあいだに地下に大きな空洞ができるんだ。それが鍾乳洞」
「ふうん……」
わたしは懐中電灯で洞窟の天井を照らした。
「きっとこの丘に家やマンションが建たないのも、地下にこんな大きな空洞を見つけたからなんだよ。この空洞はたったいまも、少しずつ広がっているからね」
「そっか……。じゃあ、タタリのせいじゃなかったのね」
「アユムには悪いけど、さっきのコンクリート製の入り口も遺跡なんかじゃなくて、この鍾乳洞を研究するためか、地質調査に使われてた入り口の名残りだと思う」
「なぁんだ、ちょっとがっかり!」
そう言いながらも、トモミの声はさっきよりも明るくなっていた。タタリの原因がわかって、気が楽になったのかもしれない。
「じゃあ龍の玉なんてないのね」
「それは……」
わたしは言葉につまってしまった。この鍾乳洞を見つけたことが、一夜で燃えつきた城や、工事現場での謎の事故の説明になるわけではなかったからだ。
「せっかくだから、もう少し進んでみよう」
この洞窟のどこかに、龍の玉伝説のもとになった『何か』があるに違いない。わたしはどうしても、それを見つけたかった。
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