緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第6話 いざ洞窟へ!

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「じゃあ、行くよ」

 アユムから懐中電灯を受け取ると、ゲタを脱いで裸足になり、つんいで穴の中へ入った。
 外のうだるような暑さと違って、穴の中はひんやりと涼しい。

 わたしは壁をさわってみた。さらりとした感触かんしょくの平らな壁は、天然石のようには見えない。どうやらコンクリート製のようだ。しかも劣化れっか度合どあいを見るかぎり、それほど昔に作られたコンクリートとは思えない。

 やはりこの穴は、比較的新しいもののように思えるが……。


 ひとり考えをめぐらせていると、せまい穴の中にアユムのごとがおんおんと響いた。

「ハカセぇ、トモミぃ! ボクのまわり、まっ暗で怖いよぉ~」

「黙りなさい! あんたの声が穴の中に響いてうるさいの!」
 トモミの怒鳴り声が、強烈に耳を突く。

「ふたりとも静かに!」
 そう言ってから気がついた。

「水の落ちる音がする……」

 わたしたちは耳をすませた。かすかに、しずくの落ちる音が暗闇の奥から聞こえてくる。

「奥はいくらか広そうだよ。急ごう」




 十メートルほど進むと、コンクリート製の壁は途切れるように終わりを見せ、ごつごつとした黒い岩肌へと姿を変えた。
 洞窟は、すでに立って歩けるほどの高さになっている。


「きゃぁあああああ!」


 その叫び声が響いたのは、一息ひといきつこうと背伸びをしたときだった。

 あわてて懐中電灯を向けると、トモミの顔のすぐ前に『それ』が浮かんでいた。

 明かりをうけたその物体は、ゆらゆらと不気味にうごめく大きな黒い影を、洞窟の壁いっぱいに映し出している。

 すかさずわたしは『全宇宙生物図鑑』を背中からおろして、トモミの目の前で大きく開き、ばたん! と、すばやく閉じた。


「顔ぐらいあった……。初めて見た、あんな巨大グモ……」

 腰を抜かしたトモミが、胸を両手で押さえ、けんめいに息を整える。

 わたしは図鑑を開いて中を確認した。

「本で潰しちゃったの? ごめんね、大切な本なのに」

「ううん、いいんだよ。それより……」

 さっきから、アユムの姿がどこにも見当たらない。


「アユム~、どこ~? さっさと出てこないと、張り倒すわよ~」

 トモミの怒鳴り声が洞窟の中をこだまする。
 すると、もと来たコンクリート製のせまい穴から、かすかな声が返ってきた。

「ここだよ~……。ぼく、おなか痛くなっちゃったから、外で待ってるよ~……」

 思わず顔を見合わせる、わたしとトモミ。

「一番乗り気だったくせに。あいつ、怖くなって逃げたのよ」

 トモミが肩をすくめる。

「……仕方ない。このさきは、ふたりだけで行こう」

「えっ、ふたりだけで……?! ほんと、しょうがないわねぇ」

 愚痴ぐちるトモミのその声は、なぜか不思議と、踊っているようにも聞こえた。



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