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第4話 ふたりの告白
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しおりを挟むどのくらい時間がたったのだろう。
金色の夕日が、雨粒の残る草原をきらきらと照らしているのを見て、わたしは雨が止んでいることに気がついた。
背後から草をかきわける音がする。
続けて聞こえたタタンという軽い足音にふり返ると、いつのまにかトモミがわたしのとなりに立って、夕日に照らされ金色に輝く草原を見つめていた。
「どうしたのハカセ? ずぶ濡れじゃない」
頭からバケツの水をかぶったように濡れそぼつわたしに、トモミはふり向きもせずハンカチを渡そうとしてくれたが、なぜかわたしは受け取れずにいた。
いままで見たことのないトモミの険しい横顔に、わたしはひどく驚いていたのだ。
トモミは何事もなかったようにハンカチをしまうと、ぽつりとつぶやいた。
「パパがね、いなくなっちゃったの」
わたしは言葉を失った。
トモミがあれほど明るくあっけらかんと話すものだから、本当に両親が別れて暮らすことになるなど、夢にも思っていなかったからだ。
「そんな顔しないで!」
トモミはわたしの顔を見るなり、いつもと同じ、弾けるような笑顔で言った。
「わかってたんだ。だってパパとママ、最近は難しい話で言い争いばかりしていたし……。
でもいいの! わたしはママと一緒なら大丈夫。これからは二人三脚でがんばらなくっちゃね! わたしに残された、たったひとつの居場所なんだから……」
そこまで言ってトモミは背を向けた。
ずっと立ちつくしたまま、それからずいぶん長いこと、トモミは黙ったままだった。
「ハカセはさぁ、夜景って好き?」
空がすっかり藍色に染まったころ、ようやくトモミが口を開いた。
夜景――。
街の灯り。
わたしはこの星に来て、街の灯りさえ見たことがない。
トモミはずっと遠くを見つめていた。
わたしも立ちあがり、背のびをして同じ方向を見た。
地平線の草の隙間に、かすかに光る街の灯りが見えた。こんな近くに街があったことに、わたしは初めて気がついた。
「わたしね、昔から夜景を見ると、なぜか胸がきゅんとなって愛おしくなるの……。それをアユムに話したら、あいつ偉そうに言ったんだ。ぼくも大好き。あの灯火のひとつひとつに、あったかくて、やわらかな、みんなの居場所があるんだもん。ってさ……」
なるほど、なかなかアユムもいいことを言う。
アユムが密かにトモミに想いをよせていることを伝えてあげるべきだろうか?
そう思ったとき――。
「それからわたしは夜景が大嫌いになった! 見るたびに、吐き気がするわ!」
驚いて、わたしはトモミの顔を見た。
泣きはらした目は、ぎゅっと遠くを見つめていた。
トモミは黙って宇宙船からかけ降りると、ふとふり返り言った。
「ハカセは帰らないの? あったかい灯りに包まれた、自分の居場所にさ」
とつぜんの質問に、わたしはとまどった。
わたしの家は三万光年も遠く離れた星にある。とりあえず、いまはこの小型宇宙船の上がわたしの居場所になるのだろうが、放り出されたまま入れやしない。
「ええと……」
何かこたえないと地球人でないことがバレてしまう。わたしはあせって言葉を続けた。
「夏休みを使って、ぼくはひとりで世界中を旅してるんだけど、しばらくはここで野宿するって決めた……。だからいまは、トモミやアユムが集まるこの場所が、ぼくの大切な居場所……かな」
言ってる途中から、自分でつっこみたくなった。
わたしは、この星では小学生という設定なのだ。
たかだか十二歳の子どもが、世界中をひとり旅だなんて、いくらなんでもありえないだろう。
しかしトモミは一瞬驚いたような顔をしたものの、まるで氷が溶けていくように、やさしい笑顔に変わっていった。
そしてまた、くるりと背を向け走っていく。
その姿が地平線に消えかけたとき、トモミがふり返って叫んだ。
「ここを旅立つときはハカセ、わたしも一緒に連れてってね~」
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