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第二の扉

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父フェルマーと一緒にいたリビングを出て、玄関の前に広がるホールにある螺旋階段を上り、二階に上がった目の前の通路を右に進み、突き当たりの左の部屋が愛衣奈めいなの書斎、その右が寝室である。

愛衣奈の書斎は、高さ3メートルほどの本棚が壁一杯に広がる。ほとんどが魔術書で、古代文字で書かれている。

愛衣奈はしおりの挟んだ赤い魔術書を本棚から取り出し、窓際にある三人掛けの赤の姫ソファに座って、その魔術書を開く。



理玖りく君に食べさせた惚れ薬入りのチョコ、全く効果がなかったわ。それを上回るほど、私は嫌われていた…?そんな事はないはず。だって、給食の時、私が落とした唐揚げ一個分、自分の物から分けてくれたじゃない。私に気があるのは、間違いないか…」



惚れ薬入りのチョコを自分が食べたのかと思わせるほど、愛衣奈は惚れやすかった。そして、意外にも冷めやすい。



「作り方は間違っていない。でも、薬師蜘蛛の毒の分量は間違えたのかも…。きっと、それね」



愛衣奈は、細く長い指をパチンと鳴らし、唇を尖らせて、小さく口笛を吹いた。すると、緩い風が彼女の前に円を描く様に吹く。




「あら、使い勝手が荒いお嬢さんねぇ?」




風が次第に黒を纏い、回転を速める。その高さが1m80cm程度まで伸びると、その黒い風は、黒いマントを纏った黒髪で、冷酷な目つきをした女へと変貌した。




邪気を放つ女の身に纏う、艶のある黒いボディスーツは、彼女のスタイルの良い胸や腰、お尻のラインをはっきりと浮かばせる。それを際立たせるかの様に、女は少し腰を捻り、満足そうなため息を漏らす。




「愛衣奈、私を再びこの部屋に呼び出すなんて。悪い子ねぇ…。使い魔みたいに考えてるのよねぇ、本当に馬鹿な子だわ」




その邪気を放つ女の威圧的な眼差しを無視して、愛衣奈はしらけた目を向け、ため息を漏らす。





「薬師蜘蛛が必要なの、また採ってきてちょうだい」





その愛衣奈の言葉に、口を大きく開いて、声を出して笑って見せた邪気の女。まるで無能だと今にも罵る様な軽蔑した、乾いた笑いだ。そして次の瞬間、気が触れたかの様に、邪気の女は目を光らせ、愛衣奈の細く白い首に勢いよく手を伸ばし、絞め殺そうとした。




その邪気の女の手が、愛衣奈の首を掴む直前で、カタカタと震えて掴めないでいる。




「まだ、わかってないの?貴女は苅磨かるま家の先祖、苅磨ヴェルダーと契りを交わした、それは事実なのに、その契約を無効にしようって言うの?それがどういう事なのか、悪魔ならわかるでしょ?」






「ふぅん?貴女とは何も契りを結んでなんかいないわ。それでも、契約不履行と見なすのかしら。おもしろいわね、お嬢さん」





「苅磨ヴェルダーは、貴女を助けるかわりに、私達苅磨家の血を継ぐ者達の願いを100叶える契りを交わしているはずよ。その事を忘れたの…?」





愛衣奈の怯まぬ目に、邪気の女は戦意を失い、フフフと笑って両手を広げ、降参のポーズを取った。





「もちろん、忘れてなんかいないわ。ヴェルダーは、苅磨家の血筋の者達を守れと言っていたもの。貴女の血は本物ね、彼の血を受け継いでいる。良かったわね、彼の血をしっかりと継いでいて。そうではないと、今頃、フフフ…」





愛衣奈は心の中では怯えていたが、悪魔に隙を与えると取り憑かれてしまうと思い、必死に抵抗の目を向けた。苅磨ヴェルダーのおかげもあり、難を逃れた様だ。





「貴女、薬師蜘蛛の毒を抽出して、その後、その蜘蛛は食べたのかしら?」







「…逃したわ。多分、何処かで生きてるんじゃない?別に刺されても痺れるのと、惚れられるくらいだわ。そんなに多くの害はないでしょ?」







「じゃあ、その薬師蜘蛛を探してあげる。何度も私の世界からこちらへ持ってくるのも面倒だわ」







愛衣奈はうんうん、と返事をして、腕を組んだ。





邪気の女が回り出し、その回転が速まると、黒く染まる風に戻り、やがて黒色が薄れると共に風も緩やかになり、そして女は目の前からいなくなった。





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