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魔の臭気
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街の中に川が流れる水の都とも言われたミューリューン。煉瓦造りの高い建物が規則正しく立ち並ぶ。
街中に幾つもの運河が重なり、小舟で街中を移動する事ができる。
この街の中央に高い時計塔があり、3時間毎に大きな鐘の音を街中に響かせる。その時計塔を目印にして、街の者達は、今の居場所を確認したりもする。
この街に、魔物や盗賊が荒らした形跡はなく、街の者達は心から穏やかな生活を送っている様に見える。
白いローブに腰に黒い革のベルト2本で締め、首から聖母のチャームのついた銀の首飾りをして、肩までの黒い長髪で顔立ちの良い青年は、建物の綺麗に建ち並んだ光景を見て、声を漏らした。
「家々が破壊されず、綺麗に並んでいて、道を行き交う者達の活気を感じる。街が生きているというのは、こういう事なんだろう。久し振りだ、こんな街を見たのは」
白いローブの青年はそう言い、喜ばしいというよりは、意外で驚いた表情を見せる。一度は破壊され、再建でもしたのか、そうでなければ、悪しき者達にとって、余程この街に価値はないと見たのか、と。
石橋の上でこの青年をじっと見つめる茶色の外套を纏った老人がいた。
その老人は青年が近くを通ろうとした時、挑発する様にわざと声を出して、ホッホッホと笑った。
「聖母が泣いておるよ?お前さんに首からぶら下げて欲しくないとな。何なら、儂が預かろうか?小僧…」
そう言う老人の声に、僅かに怒りが帯びていた。
青年は、フフフと笑い、老人に目を合わせず、言葉を返した。
「いいえ、私は聖母に愛されていますとも。聖堂の騎士の称号も、手に入れていますよ。お見せしましょうか?」
老人は、青年の微笑みながら言う姿に眼光鋭く、睨みつけた。そして、忌み嫌うものを目に映したくはないと言わんばかりに、目を逸らした。
「節穴よの。聖堂の司教も、人の子。間違いも犯すが、果たして今回は許してやるべきか。難しい選択じゃ」
老人はそう言うと、そのまま目を逸らしたまま身を翻し、振り返らずその場を去っていった。
青年は溜め息を吐き、理解不能と言わんばかりに首を振った。
「愚かな老人だ。節穴は、誰の事かな?」
青年は、小さな階段を降り、目の前の船着き場にある小舟の舵取り人に声をかけた。
「乗せてくれ」
青年の声に反応し、舵取り人は返事をして、1回50ペンドと伝えた。
「見事な値段設定だな。良いだろう、行き先は、新鮮な野菜を食べさせてくれる店だ。近くまで、行ってくれ」
「お兄さんよ、船でしか行けねぇ場所に、うめぇ料理と酒の置いてある酒場があるんだよ。そこまで行くぜ」
青年の言葉にすぐ様反応し、親指を立てて笑顔を見せながら舵取り人は言った。
「そういう訳だ、兄さんよ!」
無精髭のいかつい体格をした酒場の主人は、自慢げに言った。
酒場のカウンターの席に座っていた白いローブの青年は、半信半疑で話を聞き、カウンター上の木製の丸い器に入った野菜をフォークで突き刺し、口へ運ぶ。
「この街の上流にある神秘の森に流れる川にザイユという神の像があって、そこを経由した水は聖水になるんだよ」
まるで自分の事の様にその話を自慢して、誇らしげな酒場の主人は、白いローブの青年の反応を目を大きくして、期待している。
「…こんなものか」
白いローブの青年の素っ気ない呟きに、酒場の主人は顔を紅潮させ、耳を傾けて怒りの声を上げた。
「ああん?兄さんよ!?こんな…何だって?」
酒場の主人は誇りを汚されたとばかりに鼻をヒクヒクと痙攣させ、白いローブの青年の襟を掴んで、自分の顔の近くにまで寄せた。
「俺の話がそんなにつまらねぇか?それとも、俺の作ったメシがまずくて食えたもんじゃねぇって、そう言いてぇのか?どちらにしても、この店にいる事はできねぇな?通りでこの店の空気が、まずくて仕方ねぇと思っていたら、お前のせいだな…?」
顔を紅潮させ、怒りの形相の酒場の主人に、白いローブの青年は目を細めて笑って見せた。
「貴方のお話は、とても興味深いものでした。その神秘の森にあるザイユという神、私も神に仕える身として、一度は足を運んでみなくては。この野菜も他では採取できないものが入っていて、とても美味しいものでした」
そう白いローブの青年は言って、席を立った。
「おい!…お前が生野菜食べたいっていうから、特別メニュー出してやったんだ。金払っていけ!」
「わかっていますよ、では30ペントここに置いておきます」
白いローブの青年は表情を崩さず、カウンターの上に銀貨3枚を置き、立ち去ろうとした。
酒場の主人は、その青年の足を止めるかの様に咳払いをして、見下す様な目を彼に向けた。
「おい、生野菜の特別メニューだって言ってんだろう?勝手に値段決めてるんじゃねぇぞ?」
「では、幾らだと言いたいのですか?」
「…300ペントだ。迷惑料も含めてな!当然だろう…?」
「素晴らしい値段設定ですね。生野菜を出す店は少ない。確かに、貴重なメニューでしたよ」
白いローブの青年の、口元に笑みを浮かべて話す様子に、酒場の主人はうまく彼を困惑させる事ができず、苛立った様にカウンター端をゴツゴツと拳で叩き、顔色は湯気が出そうなほど紅潮させていた。
「じゃあ、払え!いらねぇ事ばかり喋ってねぇでよ。払うか、払わないのか、それしか興味がねぇんだよ、小僧!」
酒場の主人はそう声を上げて言い、紅潮させた顔のまま、口元を緩め、どうだ参ったかと勝ち誇った様な薄ら笑いを浮かべた。
コト…
コト…
コト………
白いローブの青年は銀貨を1枚ずつカウンターに並べていき、合計300ペントとなった。
「300ペントお支払いしましょう。では、神のご加護を」
唖然とする酒場の主人を背に、酒場を出ていった。
白いローブの青年は淋しそうな表情を浮かべ、息をふうっと吐いた。
「大地の味とも言うべき野菜の中に、まだ魔の臭気は残されていた。何かを施さなければ、消滅させる事は難しいのか…」
酒場から出た目の前の船着き場で、先ほどの舵取り人が白いローブの青年に気づき、笑顔で手を振っている。
舵取り人の笑顔につられて、白いローブの青年も微笑んだ。
「とても良い、お店を紹介してくれたよ」
白いローブの青年はそう呟いて、小舟に乗り込んだ。
街中に幾つもの運河が重なり、小舟で街中を移動する事ができる。
この街の中央に高い時計塔があり、3時間毎に大きな鐘の音を街中に響かせる。その時計塔を目印にして、街の者達は、今の居場所を確認したりもする。
この街に、魔物や盗賊が荒らした形跡はなく、街の者達は心から穏やかな生活を送っている様に見える。
白いローブに腰に黒い革のベルト2本で締め、首から聖母のチャームのついた銀の首飾りをして、肩までの黒い長髪で顔立ちの良い青年は、建物の綺麗に建ち並んだ光景を見て、声を漏らした。
「家々が破壊されず、綺麗に並んでいて、道を行き交う者達の活気を感じる。街が生きているというのは、こういう事なんだろう。久し振りだ、こんな街を見たのは」
白いローブの青年はそう言い、喜ばしいというよりは、意外で驚いた表情を見せる。一度は破壊され、再建でもしたのか、そうでなければ、悪しき者達にとって、余程この街に価値はないと見たのか、と。
石橋の上でこの青年をじっと見つめる茶色の外套を纏った老人がいた。
その老人は青年が近くを通ろうとした時、挑発する様にわざと声を出して、ホッホッホと笑った。
「聖母が泣いておるよ?お前さんに首からぶら下げて欲しくないとな。何なら、儂が預かろうか?小僧…」
そう言う老人の声に、僅かに怒りが帯びていた。
青年は、フフフと笑い、老人に目を合わせず、言葉を返した。
「いいえ、私は聖母に愛されていますとも。聖堂の騎士の称号も、手に入れていますよ。お見せしましょうか?」
老人は、青年の微笑みながら言う姿に眼光鋭く、睨みつけた。そして、忌み嫌うものを目に映したくはないと言わんばかりに、目を逸らした。
「節穴よの。聖堂の司教も、人の子。間違いも犯すが、果たして今回は許してやるべきか。難しい選択じゃ」
老人はそう言うと、そのまま目を逸らしたまま身を翻し、振り返らずその場を去っていった。
青年は溜め息を吐き、理解不能と言わんばかりに首を振った。
「愚かな老人だ。節穴は、誰の事かな?」
青年は、小さな階段を降り、目の前の船着き場にある小舟の舵取り人に声をかけた。
「乗せてくれ」
青年の声に反応し、舵取り人は返事をして、1回50ペンドと伝えた。
「見事な値段設定だな。良いだろう、行き先は、新鮮な野菜を食べさせてくれる店だ。近くまで、行ってくれ」
「お兄さんよ、船でしか行けねぇ場所に、うめぇ料理と酒の置いてある酒場があるんだよ。そこまで行くぜ」
青年の言葉にすぐ様反応し、親指を立てて笑顔を見せながら舵取り人は言った。
「そういう訳だ、兄さんよ!」
無精髭のいかつい体格をした酒場の主人は、自慢げに言った。
酒場のカウンターの席に座っていた白いローブの青年は、半信半疑で話を聞き、カウンター上の木製の丸い器に入った野菜をフォークで突き刺し、口へ運ぶ。
「この街の上流にある神秘の森に流れる川にザイユという神の像があって、そこを経由した水は聖水になるんだよ」
まるで自分の事の様にその話を自慢して、誇らしげな酒場の主人は、白いローブの青年の反応を目を大きくして、期待している。
「…こんなものか」
白いローブの青年の素っ気ない呟きに、酒場の主人は顔を紅潮させ、耳を傾けて怒りの声を上げた。
「ああん?兄さんよ!?こんな…何だって?」
酒場の主人は誇りを汚されたとばかりに鼻をヒクヒクと痙攣させ、白いローブの青年の襟を掴んで、自分の顔の近くにまで寄せた。
「俺の話がそんなにつまらねぇか?それとも、俺の作ったメシがまずくて食えたもんじゃねぇって、そう言いてぇのか?どちらにしても、この店にいる事はできねぇな?通りでこの店の空気が、まずくて仕方ねぇと思っていたら、お前のせいだな…?」
顔を紅潮させ、怒りの形相の酒場の主人に、白いローブの青年は目を細めて笑って見せた。
「貴方のお話は、とても興味深いものでした。その神秘の森にあるザイユという神、私も神に仕える身として、一度は足を運んでみなくては。この野菜も他では採取できないものが入っていて、とても美味しいものでした」
そう白いローブの青年は言って、席を立った。
「おい!…お前が生野菜食べたいっていうから、特別メニュー出してやったんだ。金払っていけ!」
「わかっていますよ、では30ペントここに置いておきます」
白いローブの青年は表情を崩さず、カウンターの上に銀貨3枚を置き、立ち去ろうとした。
酒場の主人は、その青年の足を止めるかの様に咳払いをして、見下す様な目を彼に向けた。
「おい、生野菜の特別メニューだって言ってんだろう?勝手に値段決めてるんじゃねぇぞ?」
「では、幾らだと言いたいのですか?」
「…300ペントだ。迷惑料も含めてな!当然だろう…?」
「素晴らしい値段設定ですね。生野菜を出す店は少ない。確かに、貴重なメニューでしたよ」
白いローブの青年の、口元に笑みを浮かべて話す様子に、酒場の主人はうまく彼を困惑させる事ができず、苛立った様にカウンター端をゴツゴツと拳で叩き、顔色は湯気が出そうなほど紅潮させていた。
「じゃあ、払え!いらねぇ事ばかり喋ってねぇでよ。払うか、払わないのか、それしか興味がねぇんだよ、小僧!」
酒場の主人はそう声を上げて言い、紅潮させた顔のまま、口元を緩め、どうだ参ったかと勝ち誇った様な薄ら笑いを浮かべた。
コト…
コト…
コト………
白いローブの青年は銀貨を1枚ずつカウンターに並べていき、合計300ペントとなった。
「300ペントお支払いしましょう。では、神のご加護を」
唖然とする酒場の主人を背に、酒場を出ていった。
白いローブの青年は淋しそうな表情を浮かべ、息をふうっと吐いた。
「大地の味とも言うべき野菜の中に、まだ魔の臭気は残されていた。何かを施さなければ、消滅させる事は難しいのか…」
酒場から出た目の前の船着き場で、先ほどの舵取り人が白いローブの青年に気づき、笑顔で手を振っている。
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