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鹿さま

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目の前に茶色の鹿がいる。その鹿は微動だにせず、じっと俺の事を見ている。

何を見ているとでも言いたそうだが、お前が立っているのは、俺の家の台所の前だ。

何か食べ物でもないかなと気軽に入ってきたところ申し訳ないが、結構頭にきている。勝手に入ってくんな、鹿ごときが。ここは、俺の家だ。しかも高層マンションの17階だぞ。



「おい、人間。私はお腹を空かしている。早急に何か食べさせて欲しい」



「喋りやがったな!?鹿の分際で!」



「うむ。私は何処からどう見ても、鹿だが?なら、私が欲している食べ物もわかるはずだ。早急に差し出す事を要求する」



「おい、ジビエ。お前は何処から入ったんだ?」



「いち早く私を食材扱いした事に怒りを覚えたぞ、人間よ。このインテリの象徴たるツノが見えないのか?私は、鹿である!」



「見てわかるよバカ!さっさと後ろのまな板の上に乗れよ、今すぐ調理してやるからよ!?」



「ヒヒンと言いたいところだが、私は馬ではない。遠慮しておこう。わかるか?この意味が」



「脳の病にでも侵されてるのか、てめえは!頼むからUFOにでも乗って帰るか、大人しくジビエ専門店で食材にでもなってくれよ!」



「崇高な存在でもあるこの鹿様に対して、何たる侮辱的発言…!?」



「お前ら目線での話だろうが!ここに鹿せんべいなんてねえぞ、この鹿野郎!今すぐ、俺の家から出ていきやがれ!」



「この部屋の空気感は気に入った。今日から私の部屋だ。良いな?」



「いいわけねえだろうが!食われたくなきゃ、動物園に面接でも行って、何とか雇ってもらえよ!まぁ、人間はお前ら鹿の事なんて見飽きて、誰もお前らなんかを見には行かねえだろうけどな!」



「じゃあ、私の生活圏はここだな」



「動物園での話を言ってんだよ!通報するぞ、この鹿野郎!麻酔銃で撃たれて、施設で毒ガス食らいたくなければ、今すぐ、この家から出ろ!」



「じゃあ、鹿せんべいある?」



「てめえ、やっぱり奈良公園から抜けて来やがったな?観光客が激減してるからって、餌求めてこんな都会にまで出てきやがって!」



「それは、お前目線ではないのかな?…奈良はだな、お前の思ってる様な場所ばかりでもないんだぞ?」



「そこを怒ってんのか!?悪かったよ。だから、早く出ていってくれよ!?」



「ニンジンくれ!」



「馬じゃねえとか言ってたのに、馬の大好物要求してきやがったな?鹿としての誇りがねえのかよ!」



「別にニンジン食べるよ、鹿でも。私を知りたくば、椰子国動物園に来ると良い」



「何だ、お前!動物園脱走だったのか!?」













『鹿さま』…完



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