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崖っぷち芸能人

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怪談話のお仕事、これをものにしなければ、私は芸能界から干される。絶対に成功させよう!

3。

2。

1。



「皆様、小林拓でございます。これからお話しする出来事は、私が高校1年の時…」



カメラが回っている後ろに確認のモニターがある。そこで、私の姿が確認できるのだが、目は虚ろ、顔色は悪いし、声は死にかけ、完全に怪談話に相応しい状態だ。テレビ関係者の皆さん、小林拓をよろしくお願いします。



「私が高校の同級生2人と国際競技場で行われたサッカーを観戦した夜の帰り道、道が混んでいたため、少しでも近道をしようと、脇道に入っていきました。その時、私の直感で嫌な予感がしたんですよね。何か、私が選ばない選択肢を誰かに誘われる様に選んでしまった、後悔の念。それは、この薄暗くしんと静まったこの細道を歩き進める度、深まっていきました」



「ほう…!?」




その『ほう』いるか?でも、ディレクターに反感を持っても仕方がない、集中、集中。



「その細道は10m毎に明かりの弱い街灯が1つ。それが15mに1つ、20mに1つと、距離が開き、街灯の明かりの届かない暗い場所が増えていき、周辺の物もはっきりと確認しづらくなっていったんです。家々の間隔も開き、その家の明かりも消えたまま。カラスの鳴き声が増え、まるで山奥へ向かっているかの様で、恐くなりました。ここは都心からそう離れていない場所、街も栄えているので、こんな場所、有り得ない。何かに取り憑かれ、とてつもなく恐い場所へ引っ張られているのではないか、そう思って引き返そうかという思いが強くなっていたその時、遠くの方で、消防の赤い電球が薄気味悪くポツンと光っているのに気づきました。その先に、小さな公園らしきものが見えたんです」



「眠い!」



眠い、じゃないよ。つまらない発言の広告塔か、貴方。テレビを観た人が一斉に最後まで聴かずにつまらないと判断するだろう。逆に、恐いな…本当かい…?で、何があった?とか気の利いたコメントはないものかね。



「カット!」



「あ、あれ…?」



「もっと簡単に言おうよ、恐さは二の次でいいからさ。さ、言ってみて」

3。

2。

1。



「皆様、小林拓でござ…」



「カット!」



「あ、あれ…?」



「簡単に言って」

3。

2。

1。



「みな、私、小林拓。これから話す出来事、高校…」



「カット!」



「あ…あれ?」



「来日したばかりの中国人か、お前!はい、もう一度!」

3。

2。

1。



「皆様、小林です。高校1年の時の話です」



「私が高校の同級生2人と国際競技場で行われたサッカーを観戦した夜の帰り道、道が混んでいたため、少しでも近道をしようと、脇道に…」



「カット!」



ぬぁにぃぃ??



3。

2。

1。



「皆様、小林です。高校1年の時の話です」



「私を含めて3人でサッカー観戦した帰りに近道しようと脇道に入っていきましたが、嫌な予感したんです」



「じゃあ、入るな!すぐに戻れ!」



それは、貴方の言葉に対して言いたいね。私の『恐い話』という領域に入ってくるんじゃないよ。今すぐに出ていけ!



いけない、ディレクターに反感を持ってはいけないな。落ち着かないと。





「ちなみに、これ生放送だからな…」







「え…!?」




『崖っぷち芸能人』…完

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