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レンタル

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僕は、ちょっと特殊な職業を営んでいる。

レンタル彼氏。

僕が依頼人に彼氏の振りをして、1日過ごすんだ。

1日の料金かい?

5万円だ。

そう、決して安くないんだ。でも、独り身で淋しい日々を送る彼女の冷えた心を、少しでも僕が癒し、温めてあげられれば良いと思うんだ。

5万円でね。

朝10:00~夜7:00までが1日とされる。

僕が時間内に依頼人に奢った食事代は、全て1.5倍で請求させて頂くので、別途料金が発生する。

これは仕事だから、時間内にできるだけ多く僕が奢る形を取れるかが、儲けを増やすコツなのさ。

いけない、いけない。心の声が出てしまうよ。

さて、ハルガモ公園の噴水で待ち合わせた彼女、ようやくご登場だ。

名前と年齢は知っているが、容姿は知らないんだ。だって、失礼だろ?

でも、美しが丘あけみさんという名前を聞けば、丁度この噴水に向かってまっすぐ歩いているあの優雅な女性に違いない事くらい、わかるのさ。

端正な顔立ち、丸顔で口元にホクロがセクシー、髪は金髪に染めてウエーブ。優しく微笑む貴女、いらっしゃいませ、僕がレンタル彼氏、北川浩司でございます。

あれ?

僕の顔は依頼した時に顔が表示されるはずだよ。どうしたんだい?これもまた、演出なのかな。

あー。

本物の彼氏か。手を繋いで、去っていったな。

じゃあ、違うな。

何処に…いるのかな?美しが丘あけみさん。

!?

「こんにじば!」

びっくりした!急に目の前に出てくるな!?

何だこいつは。肥満でお腹も顔も化け物みたいに膨れ上がっているな。土偶体型。口元のホクロは正露丸か?しっかり口の中に入れて飲めよ。後、まぶたも肥満で閉じかかっているのか?俺が見えてないだろ。

「こんにじば!」

何だって?こんに…じば?

こんにちは、だろ?そんな言葉すら喋れないなんて、人とうまくコミニュケーションすら取れないだろう。残念な生き物って、何処にも存在するんだね。

「こんにじば!私の…ダールリン!」

うっ!何か腹に銃弾でも食らったか?腹に突然激痛が走ったぞ。ふう、でも何ともない。良かった。

「もう離さねぇ、ケェ。私の事、1日目から永遠に愛してくれるんずだめよねぇ?」

え?え?よくわからない、何て言ったの?ただ、圧力はこの上なく感じているよ。この危機感は、何?

「ダールリン、そのかわいい唇、永遠にすすってやるでな。そんで、抱きしめて、それが解けねぇ様に…いひひひ…」

ヤベェ!この化け物、口から出る言葉がいちいち恐怖でしかないんだけど。



ま、ま…ま…ま!



まさか!?



美しが丘あけみさん!!!?



「あ、あー、あー…あな、たの。名前は…!?」



はあ、はあ!?



呼吸が乱れる。



この後、俺は監禁され、2度と陽の目を拝む事はないのでは!?



どうしよう!



どーしよう!?






「私の、名前ぇぇえはぁ…!?」




あああ、恐え!恐え…!!



「北林のどか…だす!」





ほぉおおっ!!





心の底から、安堵だよ!!





『レンタル』…完
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