上 下
438 / 441
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その314

しおりを挟む
記憶の景色にまた、波紋が広がる。

この波紋は、何だ?

アンタの涙が、この景色に落ちて、こんな現象を見せているのか?

後悔なのか?

それとも…。

ゼドケフラーに真実を見極めて欲しかったのに、そうはならなかったから、悲しんでいるのか?

俺は…。

俺の知っているゼドケフラーは、イヤな奴じゃなかった。

きっと。

アンタのよく知っているゼドケフラーも、きっと悪い奴じゃないって、わかっているよな?

俺をこんな戦いに巻き込みやがった奴らは許せねえ。

あのハムカンデは、俺とパルンガとの戦いを仕組みやがった。

パルンガに幻覚で暴走させやがって。

俺は、メベヘをやっつけて。

ハムカンデまで行き着かないといけないんだ。

頼む…。

力を貸してくれよ。

パルンガのかたきを討たせてくれよ。















そうだ。

そうして、俺は再びメベヘのいるこの誇闘会ことうかいの舞台に戻って来たんだ。



「小僧!?何処へ消えた?」



メベヘのひと振りは、やっぱり片手だけで振ったのものとは明らかに違う。

力強くて、鋭い振りだ。

いや、メベヘだけの力じゃない。

あの不気味な白い手が、メベヘの力を増大させているんだ。



「小僧、いつの間に…!?」



俺は誇闘会の四隅にある、大きな竜の杭の真上にいる。

この異常な速さは何だ?

俺はどうやってここまで来たんだ…。



「逃げ足の速度を増して、お前は何を狙う…?儂の命か?」



「カカカッ!お前が死ぬまでの時間稼ぎ、そんなもの捨ててしまえ。塵みたいに価値のない僅かな時間を生き延びたところで、それが何になる?せっかくの戦いだ、血を浴びせ合うくらいの気持ちで来い、小僧!」



俺は…お前が許せない。

やってやるよ。

メベヘ。



「儂から行くのが良いか?ならそこで待っていろ!こ…殺してやる、ぞ?小僧!!」



あの胸にある魔闘石ロワがそうさせるんだろう。やっぱり、あの白い腕が生えてから、メベヘは少しおかしい。

元々、メベヘは狂っていたけど、あの青い石の中に見える白い顔の奴の力が加わってくると、どういう行動に出るのか、予測が難しい。

構わないさ…。

お前と、その白い顔の奴も、同時に倒してやる。



タタッ!



「カカカッ!その竜の杭が小僧、お前の墓標だ!」



メベヘが飛びかかってきた!?

この跳躍力は一体?

こいつにこんな動きなんか…!?



「何っ!?」



ズバッ!



「ギャアアッ!」



「メベヘの野郎、浮浪殲滅部隊を斬ったぞ!?」



「もうめちゃくちゃだ!このメベヘは、オーロフ族の敵だ。オーロフ族を斬り殺したぞ!?」



「壇上でも古球磨ごくま族とやり合っている。こいつらはみんな、敵だ!」



周りの奴らは混乱して、どうしていいかわからないんだろうな。

グラッチェリとゲルが、ハムカンデと何だかでかい奴と戦っている。

野心が剥き出しになったな。

この街での仲良しごっこもここまでって事だな?



「お前がかわしたから、生け贄が1人出たぞ…?



「小僧、お前は何者だ?」



俺はメベヘの突進をかわした。

問題はそのかわし方だ。

俺はとっさに口に大剣をくわえ、両手を一瞬、両足と同じ位置に置き、体をバネの様にして高く弧を描いて、メベヘの反対側に飛び降りた。

俺の中にいる、この今までと違う力は何だ…?



「逃げられん様に、足を奪ってやる。そして、お前の恐怖に引き攣る顔を眺めながら、じわりじわりと殺してやるが良いな…」



「お前は、何がしてえんだ?」



「カカカッ!この世の住人の死に様を眺めるのが好きで堪らんのだ。今はお前の死への道筋を、儂が描いてやる。楽しみにしていろ」



「お前に描いてもらわなくてもな、俺のは決まってんだよ…」



俺はしもべに殺された。

だから、今の俺はまだ死んでるに等しい。

自分の世界に戻った時に、初めて俺は生き返るんだ。

メベヘ、お前もまた、死んでいる。

だから、自分と同じ死というものに執着するのさ。

お前は何をしても生き返りはしない。

俺は、お前とは違う!



「面倒な小僧だが、こいつを使わせるに足る男だよ、お前は」



目つきが変わった?奥の手を出すつもりだな。

目を凝らして警戒しろ!


狂乱一汽きょうらんいっき…」



「ガルルルルッ!」



「そうやって構えたが、さて、それが意味を成すのか楽しみだな?」



「死ねぇ…小僧!」



ザッ!



恣意一蓮斬しいいちれんざん!」



「!?」


メベヘの目と体の動きが、バラバラだ。

そして、その刀の幾重の刺突を狙う動きもまた、体と意思が一致していない…!?



「ガルルルルァアアッ!!」



どう動くのが正解だ!?

わからない…!

でも、このままだとやられる!

だから、直感で…動いた。



ダダダッ!



ザシュッ!ザシュッ!



「ぐあッ!?」



ガァアウッ!



ザザザ…ッ!



「ふぅむ。気でも狂ったか、小僧。儂の首の皮一枚、噛みちぎっていったな。野蛮な戦い方をする。まるで、獣だな…」



ブシュウゥ…!



「く、あ…あ!」



「儂の刺突をまともに食らったのだ、お前はようやく、死に向かう。時の砂は落ち始めたのだよ」



はあっ…。



はあっ…。



まだ…。


死ねねえよ。

そうだよな?

俺に力を宿してくれた東角猫トーニャ族。



そして…。



その東角猫族と仲の良かった…ゼドケフラー。

今、わかったよ。

あの時、東角猫族の記憶の景色の中で、波紋が広がったあれは。

ゼドケフラー、お前の涙だ。

仲の良かった東角猫族がやられるその景色を感じて、悲しくて泣いていたんだな。

やっぱり、アンタらは仲良しじゃねえか。

お互いに心が通ってやがる。

今、俺の中にアンタら2人の力を感じる。

もう、ゼドケフラーに狂った怒りの感情は残っていない。

呪いの血は、浄化された。

2人が力を貸してくれてんのに、ここで死んだらアンタらに笑われちまうよな。

俺にだって、意地はある。

ここは、負けられ…ねえ。



「ほう?まだ、儂と殺し合えるというのか?」



「へっ…!」



「やられるのは、お前だけで…十分だろ!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

みうちゃんは今日も元気に配信中!〜ダンジョンで配信者ごっこをしてたら伝説になってた〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
過保護すぎる最強お兄ちゃんが、余命いくばくかの妹の夢を全力で応援! 妹に配信が『やらせ』だとバレないようにお兄ちゃんの暗躍が始まる! 【大丈夫、ただの幼女だよ!(APP20)】

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

トラックエルフ ~走行力と強度を保ったままトラックがエルフに転生~

のみかん
ファンタジー
ヤンキー系金髪美少女の愛車として運送業のお手伝いをしていたトラックである俺は赤信号で飛び出してきた男子高校生を避けようとして電柱に激突。 車体発火を起こして廃車となってしまう。 最後になんとかご主人である美少女を助けようとした俺は女神様に気に入られてエルフとして異世界に転生させてもらうことになった。 転生特典として、トラック時代の強度と走行力を維持したまま……。 トラックが転生して異世界でたぶん無双します。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき
恋愛
※本編完結しました!今後はゆっくりペースで他エピソードを更新予定です。    -原作で隠されてた君が運命の人だった-  家族に溺愛されすぎて社交界から隔離されて育った侯爵令嬢エミリア、読んでいた小説の始まる3年前の世界に入り込んだ”私”が宿ったのは彼女だった。馬車事故で死んでしまう設定の皇女、そんな彼女を想って闇落ちし自害してしまう小説の主人公・公爵子息アルフリード。彼らを救うためエミリアは侯爵家の騎士団の制服をまとい、もぐりこんだ舞踏会で皇女に対面。彼女の女騎士になりたいと直談判することに。しかし、そこでは思わぬトラブルが待ち受けており……なぜかアルフリードに見初められ結婚まで申し込まれてしまう。  原作でも語られていなかったアルフリードの生い立ち、近隣諸国との関係。シスコンの兄など様々な登場人物(動物)や出来事に翻弄されながらも、エミリアは無事に彼らを救うことができるのか? ※第2部までは伏線を散りばめた、ほのぼの系。第3部からシリアス展開も混ぜながら、物語が本格的に動き出す構成になってます。 ※第2部、第3部の前にそれまでの登場人物とあらすじをまとめました。

処理中です...