上 下
411 / 441
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その296

しおりを挟む
ハムカンデが小鈴ショウレイとは呼ばず、メルシィーニの叫んでいた通りの名前を呼んだ。

やっぱり、小鈴はクラファミースで間違い…。

小鈴はハムカンデが口にしたその名前を聞いて、東角猫トーニャ族の喉元に伸ばした殺しの手を止め、驚いた様な表情を見せた。

そして、その呼び名の懐かしい響きを噛み締める様にして目を細め、空を見上げ、息を吐いた。

その小鈴の目は、傲慢で怒りまくったものとは少し違う、穏やかな目をしている様に見えたんだ。

そう、記憶の景色にいた、クラファミース。その目と同じ

お前、やっぱり。

メルシィーニ、お前は嗅覚は間違いなかった。

小鈴がクラファミースなんだとは思っていたけど、今、100%の確信に変わった。



「クラファミース、今なら思い出せるか?自分の子の名前を…」



「…」



「私の、子は…」



俺に見せる目も、刺々しいものじゃない。俺の声に反応している。

そうだ。思い出せよ。

お前の子は、メルシィーニなんだよ。

ずっと、待っていたんだ。

だけど、お前が帰ってこないから…。

あいつも変わっていったのかも知れない。

思い出せ、メルシィーニを。

せめて自分の過ちを認めて、メルシィーニに、最後の別れをしてやってくれ。

お前に殺されても、まだ、お前に期待している…。



シャキィィッ!



突然、白く輝く尖った金属が、クラファミースの胸から飛び出して、そしてそれは再び胸の中に沈んでいった。

服がその箇所を中心に、赤く染まって、広がっていった。



「な…」





何が起こったんだ?



どうした…んだよ。



クラファミースは目に力を失くして、膝から崩れ落ちる様にして、地面に倒れていった。



どうしたんだ?



なあ…?



お前は、これから本当のクラファミースに戻って、やり直さなきゃならないんだ。



そうだ。



そうなんだよ、クラファミース!



メルシィーニが浮かばれないだろうがよ!



「なのに…どうして?」





ハムカンデの悲痛な叫びが響いても、きっと何にもならない。



クラファミースは…。





「これ以上の蛮行を許す訳にはいかぬわな。この街の秩序を保つのも、儂の役割と言えようか。愚劣なる小鈴よ、このメベヘの刃の餌食となり、果てる事を喜ぶがいい!なあ?」



メベヘ、お前か?



お前が、やりやがったのか?




お前達は、あの天守層にいる仲間じゃないのか?

多少いがみ合っていたからって。



何で…。



どうして、そんな事を…。



「リョウマ族!次に試合うのは、この儂だ。今度こそ、お前を殺してやろう!?ありがたく思えよ、このメベヘが本気を出してやろうと言っているのだ、地面に頭を擦り付けて、感謝をするほどだ」



誰も救われねえ。



俺が関わると、誰も救われねえんだよ…。



何も期待できない。



もう。



何もかも、滅びちまえよ…。



そう、俺すらも。





「…」



「油断など、度を越さなければ、程良い高揚感が得られる。さあ、お前の血という血の全てを体から吐き出させ、塵の様に撒き散らせてやる。心地良い断末魔の叫びを聞かせてみろ?」



俺の体中に流れる血が温度を失い、そして凍りつくみてえだ。

メルシィーニは母親を見つけた。

でも、その母親は小鈴という仮面を被り、我が子であるメルシィーニを殺した。

ようやく、その仮面が外れようとしていたのに…。

メルシィーニを、思い出してくれたかも知れないのに。



なあ?



メベヘ…。



お前は俺を殺してくれるか?



そうじゃなきゃ…。



カチャッ!



「クカカッ!大剣を構えたな?よぉし、試合うぞ!?片腕を切り落とされたのは、お前。お前のせいだ。儂とお揃いにしてやるからな?」



「お前を…」



「お前を」



何も迷う事はない。



再び燃え上がるゼドケフラーの怒りの炎が、こんなにも心地良いと感じる事はない。

もう迷う事はないんだ。



「お前を、斬る…!」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げるが価値

maruko
恋愛
侯爵家の次女として生まれたが、両親の愛は全て姉に向いていた。 姉に来た最悪の縁談の生贄にされた私は前世を思い出し家出を決行。 逃げる事に価値を見い出した私は無事に逃げ切りたい! 自分の人生のために! ★長編に変更しました★ ※作者の妄想の産物です

皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき
恋愛
※本編完結しました!今後はゆっくりペースで他エピソードを更新予定です。    -原作で隠されてた君が運命の人だった-  家族に溺愛されすぎて社交界から隔離されて育った侯爵令嬢エミリア、読んでいた小説の始まる3年前の世界に入り込んだ”私”が宿ったのは彼女だった。馬車事故で死んでしまう設定の皇女、そんな彼女を想って闇落ちし自害してしまう小説の主人公・公爵子息アルフリード。彼らを救うためエミリアは侯爵家の騎士団の制服をまとい、もぐりこんだ舞踏会で皇女に対面。彼女の女騎士になりたいと直談判することに。しかし、そこでは思わぬトラブルが待ち受けており……なぜかアルフリードに見初められ結婚まで申し込まれてしまう。  原作でも語られていなかったアルフリードの生い立ち、近隣諸国との関係。シスコンの兄など様々な登場人物(動物)や出来事に翻弄されながらも、エミリアは無事に彼らを救うことができるのか? ※第2部までは伏線を散りばめた、ほのぼの系。第3部からシリアス展開も混ぜながら、物語が本格的に動き出す構成になってます。 ※第2部、第3部の前にそれまでの登場人物とあらすじをまとめました。

量産型勇者の英雄譚

ちくわ
ファンタジー
五十年前に勃発した戦争により、勇者は魔王を封印して死んだ。 それを期に勇者とはありふれた存在になり、英雄を目指す者、悪事を働く者、誰もが自分が勇者だと名乗りを上げるようになっていた。 そして今日、小さな村の平凡な村人が勇者になろうとしていた。 これは勇者がありふれた世界のお話。 量産型の勇者が、本当の英雄になるまでの。 ************** 自分勝手な勇者が世界を冒険して魔王を倒すために頑張る話です。 書きためがなくなるまでは毎日投稿します。 感想や厳しめな意見もお願いします!

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

処理中です...