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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その279
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後ろ髪を引っ張られる様に、また屋敷の外まで流されていく。
また空に舞った。
この景色は、俺に力を宿した東角猫族が過去の記憶として見せているのか?
いや、何か違う。
関係しているのかも知れないけど、この人はあの屋敷で病気で寝ているんだ。それなら、今の外の景色を知らないはずだ。
屋敷の外が見える部屋で寝ていて、外の景色が見えていた?
だから、オーロフ族や古球磨族が屋敷の外に集まっていた様子を俺に見せる事ができた?
そうなのかも知れない。
だけど、俺自身の体は、元々いた俺の世界の体じゃない。
何か腑に落ちないんだ。
きっと、この体にも俺の知らない秘密がある様な気がする。
この世界で生まれた体だから、少し変わっているんだと思っていたけど、俺だけこんなに何度も、誰かの力を借りて戦えるものなのか?
変に考え過ぎなだけなのかも知れないけど。
他に理由がある気もするし。
わからないな…。
うお…っ、と!
体が急加速して流される。何処に向かっているんだ?
何だ?屋敷の裏で…。
子供が泣いている?
「どうして、行きなくちゃいけないの?」
「この街をまた、住みやすい場所に戻すためなんだよ。少しの間さ、ちょっと行ってくるよ」
「あたしも行く。あたしが守ってあげるから!」
「私もお前が側にいてくれるなら、とても心強いさ。でも、今はこの街にいて、この街を守っておくれよ。その方がお母ちゃん、安心して役目を果たせるってもんだよ」
オーロフ族と一緒に北に向かうって言ってた東角猫族の女の人か。やっぱり、この街からオーロフ族達を追い出すためにひと役買って出ただけだったのか。
6、7才くらいの自分の子を置いていくなんて、不安じゃないのか?屋敷の中で、誰かに面倒を見てもらう事になっていたよな?
父親はいないんだな…。
今の俺と同じ様なもんだ。
家から出ていって、もういない。
「ひと財産稼いで、強くなってお前のところに戻ってくるからさ、楽しみにしておいておくれ」
「いやだ…」
「この私が大好きだった街を守ってくれないのかい?」
「駄目なのかい?」
「…ううん」
「…すぐ、戻ってくるの?」
「すぐ戻るさ。何よりもお前が一番大切なんだ。だから、すぐに戻ってくるよ」
「また、空に魔法の花火を作ってくれる?」
「あれはたくさんの材料が必要なんだけど、集めておくよ。お前の頼みだから、断れないねえ」
「本当!?」
「ああ、約束だよ!」
北に一緒に行って、この人はどうなったんだろうな。確か北に向かったオーロフ族や東角猫族は、北の先住民達と激しく戦ったんだろう?
どちらも多く死んだんだろう?
生き残った結果、東角猫族はオーロフ族の奴隷になったんだ。
何も幸せなんかない。
この街に残っていた方が良かったんじゃないか。
「魔法の花火、お空いっぱいに咲かせてあげるからね」
「うん!」
「また、3人で見られるね…」
「3人?」
「うん」
「たくさんの色の花火が空に広がって…」
「少し離れた場所で、あたし達を優しく見つめていた」
…!?
「きっと、あの時にお父ちゃんが側にいたんだよ。また、花火を空に咲かせたら、きっと見にくるよ!」
…バカだな、そんなんで来やしない。
一度出ていったら、未練なんかないんだよ。
自分で産んだ子じゃないんだ、そこまで大事に思われはしない。
父親なんて、そんなもんなんだよ。
「そうかい…。わかったよ、また魔法の花火を空に咲かせようね」
その顔を見ればわかる。
ウソだ。
だけど、その子に対してはその笑顔でもバレはしない。
きっと。
また、体が浮いた。空に舞い上がって、風の吹くまま流される。
何だ、今度は何処に飛ばそうとしてるんだよ…。
緑の葉が茂る高木がたくさん集まった場所、その木の枝に乗って屋敷を見下ろしている奴がいる。
この姿は、ゼドケフラーの成獣か。
前に記憶の景色の中でカグリアってゼドケフラーの成獣を見たけど、やっぱり幼獣とは比べものにならないくらい、迫力があるな。
でも、この街にゼドケフラーが何の用なんだ?
まさか、襲うつもりなのか?
でも、そんな表情はしていない。
何か思い詰めた様な感じで、少し気落ちしているのかも知れない。
でも、そんな時でも隙を感じないな。
この独特な威圧感がそう思わせるのか?
東角猫族のメルシィーニは、ゼドケフラーの事を何とも思っていない様だった。
ウソか本当かはわからないけど、メルシィーニはゼドケフラーの幼獣を倒した事もありそうだったから、今の東角猫族とゼドケフラーとの関係は良くはないのかも知れないな。
だけど、さすがにゼドケフラーの成獣相手となると、かなりの強敵になるだろう。
神獣とも呼ばれる様な存在らしいからな。
段々と木の囁く音、人の話し声、小鳥の鳴く声が遠ざかっていく。
また現実の世界、誇闘会での戦いに戻されていく。
バイバイ、ゼドケフラー。
…!?
あれ?
今…。
これは記憶の景色…だったはず。
最後に、あのゼドケフラーは俺に目を向けた。
視線が完全に俺に合っていたぞ。
本当の俺はその場所にはいないはずなのに。
前みたいに、過去の体験として誰かの体に入って、その人からの視点で見ていた時ならまだわかるけど。
まだよくわからない事が多いな。
改めて、バイバイだ。
ゼドケフラー。
また空に舞った。
この景色は、俺に力を宿した東角猫族が過去の記憶として見せているのか?
いや、何か違う。
関係しているのかも知れないけど、この人はあの屋敷で病気で寝ているんだ。それなら、今の外の景色を知らないはずだ。
屋敷の外が見える部屋で寝ていて、外の景色が見えていた?
だから、オーロフ族や古球磨族が屋敷の外に集まっていた様子を俺に見せる事ができた?
そうなのかも知れない。
だけど、俺自身の体は、元々いた俺の世界の体じゃない。
何か腑に落ちないんだ。
きっと、この体にも俺の知らない秘密がある様な気がする。
この世界で生まれた体だから、少し変わっているんだと思っていたけど、俺だけこんなに何度も、誰かの力を借りて戦えるものなのか?
変に考え過ぎなだけなのかも知れないけど。
他に理由がある気もするし。
わからないな…。
うお…っ、と!
体が急加速して流される。何処に向かっているんだ?
何だ?屋敷の裏で…。
子供が泣いている?
「どうして、行きなくちゃいけないの?」
「この街をまた、住みやすい場所に戻すためなんだよ。少しの間さ、ちょっと行ってくるよ」
「あたしも行く。あたしが守ってあげるから!」
「私もお前が側にいてくれるなら、とても心強いさ。でも、今はこの街にいて、この街を守っておくれよ。その方がお母ちゃん、安心して役目を果たせるってもんだよ」
オーロフ族と一緒に北に向かうって言ってた東角猫族の女の人か。やっぱり、この街からオーロフ族達を追い出すためにひと役買って出ただけだったのか。
6、7才くらいの自分の子を置いていくなんて、不安じゃないのか?屋敷の中で、誰かに面倒を見てもらう事になっていたよな?
父親はいないんだな…。
今の俺と同じ様なもんだ。
家から出ていって、もういない。
「ひと財産稼いで、強くなってお前のところに戻ってくるからさ、楽しみにしておいておくれ」
「いやだ…」
「この私が大好きだった街を守ってくれないのかい?」
「駄目なのかい?」
「…ううん」
「…すぐ、戻ってくるの?」
「すぐ戻るさ。何よりもお前が一番大切なんだ。だから、すぐに戻ってくるよ」
「また、空に魔法の花火を作ってくれる?」
「あれはたくさんの材料が必要なんだけど、集めておくよ。お前の頼みだから、断れないねえ」
「本当!?」
「ああ、約束だよ!」
北に一緒に行って、この人はどうなったんだろうな。確か北に向かったオーロフ族や東角猫族は、北の先住民達と激しく戦ったんだろう?
どちらも多く死んだんだろう?
生き残った結果、東角猫族はオーロフ族の奴隷になったんだ。
何も幸せなんかない。
この街に残っていた方が良かったんじゃないか。
「魔法の花火、お空いっぱいに咲かせてあげるからね」
「うん!」
「また、3人で見られるね…」
「3人?」
「うん」
「たくさんの色の花火が空に広がって…」
「少し離れた場所で、あたし達を優しく見つめていた」
…!?
「きっと、あの時にお父ちゃんが側にいたんだよ。また、花火を空に咲かせたら、きっと見にくるよ!」
…バカだな、そんなんで来やしない。
一度出ていったら、未練なんかないんだよ。
自分で産んだ子じゃないんだ、そこまで大事に思われはしない。
父親なんて、そんなもんなんだよ。
「そうかい…。わかったよ、また魔法の花火を空に咲かせようね」
その顔を見ればわかる。
ウソだ。
だけど、その子に対してはその笑顔でもバレはしない。
きっと。
また、体が浮いた。空に舞い上がって、風の吹くまま流される。
何だ、今度は何処に飛ばそうとしてるんだよ…。
緑の葉が茂る高木がたくさん集まった場所、その木の枝に乗って屋敷を見下ろしている奴がいる。
この姿は、ゼドケフラーの成獣か。
前に記憶の景色の中でカグリアってゼドケフラーの成獣を見たけど、やっぱり幼獣とは比べものにならないくらい、迫力があるな。
でも、この街にゼドケフラーが何の用なんだ?
まさか、襲うつもりなのか?
でも、そんな表情はしていない。
何か思い詰めた様な感じで、少し気落ちしているのかも知れない。
でも、そんな時でも隙を感じないな。
この独特な威圧感がそう思わせるのか?
東角猫族のメルシィーニは、ゼドケフラーの事を何とも思っていない様だった。
ウソか本当かはわからないけど、メルシィーニはゼドケフラーの幼獣を倒した事もありそうだったから、今の東角猫族とゼドケフラーとの関係は良くはないのかも知れないな。
だけど、さすがにゼドケフラーの成獣相手となると、かなりの強敵になるだろう。
神獣とも呼ばれる様な存在らしいからな。
段々と木の囁く音、人の話し声、小鳥の鳴く声が遠ざかっていく。
また現実の世界、誇闘会での戦いに戻されていく。
バイバイ、ゼドケフラー。
…!?
あれ?
今…。
これは記憶の景色…だったはず。
最後に、あのゼドケフラーは俺に目を向けた。
視線が完全に俺に合っていたぞ。
本当の俺はその場所にはいないはずなのに。
前みたいに、過去の体験として誰かの体に入って、その人からの視点で見ていた時ならまだわかるけど。
まだよくわからない事が多いな。
改めて、バイバイだ。
ゼドケフラー。
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