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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その276

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果てしなく、真っ暗闇が続く。

もう、終わり?

ひとの人生なんて、呆気ないもんなんだな。

結局、俺って何だったんだろうな。

何のために生まれたんだ?

意味なんてない。

意味を持たせようとするから、おかしくなるんだ。

ただ、気づけば生まれて、気づけば死んでた…。

ただそれだけの事なんだ。

星の寿命からしたら、人間の寿命なんて瞬きと同じ。

瞬きする間に考える事なんて、そうありはしない。

その程度なんだ、人間の寿命なんて。

もう何も考える必要もない。

もう、何も。

終わったんだ。

全て。



『テテ…』



「!?」



俺に怒りを植えつけたゼドケフラーの幼獣?

こんなところまで俺を追ってきたのか?

もう自由にしてくれよ。

俺はもう、終わった。

お前の勝ちだ。

俺はお前の怒りの力の前に、ひれ伏したんだ。

どうだ、満足か?



『オデはテテとさえ出会わなければ、もっと今頃…』



そうか…。

俺と出会わなければ良かったのか。

残念だったな。

それは俺も同じだ。怒りを植えつける先を間違えたな。

お互いにハズレを引いたって事だ。

まあ、肩を落とすなよ。

お前はもう死んでるんだろ?

すでに死んでたお前に乱されたんだ。

完全な八つ当たりだろ。

それも、もういいさ。

もう終わったんだから。



『もっと、生きたかったのに…』



そうか。

やっぱりお前、成獣になれなかったのか。

お前はどうやって死んだんだよ?

お前と仲の良かったあの東角猫トーニャ族の子と仲直りしたのか?



『オデを…倒した』



「!?」



倒した?

お前を…倒した…って?

そんな、バカな。

そんな事。

あの東角猫族が、お前を倒したって言うのか?



『テテが、倒したんだ…』



「!?」



俺が…。

倒した…って。

まさか。

まさか、お前は…?



『オデを殺したんだ。自分が助かりたいから、オデを殺した。散々オデを利用しておいて。助けて欲しい時に、助けないなんて、最低だ…』



まさか…。

お前なのか?

なあ。

パルンガ。

お前なのかよ…?



『ガルルルルッ…!』



あの時、俺はどうすれば良かったんだろうな…。

俺がやられていれば、お前は死ななかったのかも知れない。

あの時のお前の体は、限界がきてる様に思えたんだ。

きっと、もう生きられない。

幼獣の体でいられるのも、残りわずか。

その先はベルダイザーを倒して、その肉を食べる必要があるって。

お前に残されたわずかな時間、ベルダイザーを追わせてやりたいって思ったんだ。

お前は、俺の事。

ベルダイザーに見えていただろう?



『誰も信用できない…。オデはみんなを守ってあげたつもりだったのに』



みんな?

みんなを守ってあげたつもりって、誰を守ってあげたんだ?



『憎い。みんな、憎い…』



そんな事言うなんて、お前らしくないな。お前はみんなを憎むなんて事とはほど遠い奴じゃなかったか?

目の前にいる奴が敵だって見なしたら、お前は牙を向けたりもするし、勇敢だ。

最初に出会った頃はそんな印象はなかったけどな…。

中指と薬指を揃えて、その先を親指の先と重ねる。人差し指と小指を獣の耳の様にピンと立てる。

コン、コン。

なあ、パルンガ。

お前がどう思っていたのかわからないけどな…。

俺は、お前が気に入っていた。

バカだけど、思いやりがあって、おもしろい事を言うから、飽きなかった。

この世界でとても心細かったのに、それを少しでも和らげてくれた。

特にあの時は、俺は《冬枯れの牙》ラグリェに半殺しにされて、命乞いをしてまで何とか助かった。惨めで、とても惨めで。死んでしまおうかとも思った。

もう1人の俺とは大違いだ。

お前がいなければ、もしかしたら俺はかんたんに死んでいたのかも知れない。

俺は、お前がいて助かった。

心から救われた。

俺はお前と出会えて良かった。

だから。

俺は、お前が成獣になる事を…。

応援してた。

成獣になる事を…。

祈っていたんだ。











『…』












パルンガ…。



『そうか…』



暗闇の中で最後にポツリと呟いたパルンガの声は、声のトーンを落として、力一杯握っていた手綱を手放すかの様な感じに思えた。

もう、俺達は死んでしまったんだ。

お前は何処に行く?

そして、俺は何処に行くんだろうな。

目を開いてみても、閉じてみても暗闇は変わらない。

しばらくこの空間に漂っていよう。

いつまで?

もしかして、ずっとこのまま…。

そう思った時、急な風の流れを感じて、そのまま体が流されていった。

流される方向に小さな明かりが見える。

俺に天国なんて存在しない。

でも、少しでも光を感じていたい。

少しでも。







「だはっ!!?」








何!?

誇闘会ことうかいの舞台に戻ってきた。そして、目の前にいた巨体の小鈴ショウレイが目を丸くして驚き、空に浮かんでいる。

俺は…?

まだ死んでいないのか?

小鈴は俺から離れていき、後ろの方で巨体を地面に叩きつけ、倒れしまった。

何だ?何が起こったんだ?

口汚い歓声が飛び交う。ここはあの世でもない。

やっぱり、俺はまだ死んでいない。

あの暗闇の中での出来事は何だったんだ?

ほとんど時間が流れていない?

ほんの数秒の出来事だったのか?



ポタッ…。



頬を伝う液体にイヤな予感がして、手で拭って、それを目で確認した。

目から血が流れているんじゃないかって思ったから。

でも、すぐにそうじゃないとわかった。

俺の体にまだ残るゼドケフラーの存在が、それを教えてくれた。

お前は…。

さっきの真っ暗闇の中にいたゼドケフラーは、やっぱりパルンガじゃなかったんだ。

お前なんだな?

この頬を伝う涙は、お前が流しているものなんだ。

俺の中で…。

お前の大好きだったあの東角猫族の子を見つけたのか?




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