とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険！そして婚約破棄はあるのか(仮)

第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その263

熱気が高まり、歓声が上がる。

毎日の鬱憤を晴らすかの様に。

このくだらない闘いが、お前達のご褒美か？

この闘いは必ず相手が死ぬんだろう？街の人間が消えていく。それでも、お前らは何も気にしない。赤の他人がどうなろうが知った事じゃないんだろうな。

心を通わせた奴が死んでいく。

俺にとっては、当たり前の事じゃないんだ。

この世界でそんな奴らは、もう出会えない…。

パルンガ、シブやメルシィーニ、あいつらの事を考えると、とても悔しい。

せめて、俺がお前達の恨みを少しは晴らしてやるからな…！



「うがぁあっ！！」



俺は小鈴ショウレイの伸びる槍を何とかかわしながら、反撃の機会を探していた。

実際に槍は伸びている訳じゃない。最初に柄を短く持って、槍で攻撃をする時に柄を手で滑らして後ろの方を持ち、俺に槍が伸びている様に錯覚させて攻撃しているに過ぎない。

今の俺に、それで致命傷を与える事なんてできないぞ。

俺の今の動体視力は、謎の炎で力を宿してくれた人のものに近い。

でも、小鈴の手際が良過ぎて、今はかわすのが精一杯だ。

でも、それももう少しで慣れていく。

その時が、お前の最後だ。



「逃げてばかりの赤ちゃんがよぅ！どうやって、この私に勝つんだはっ！？このまま圧力に負けて、足滑らせて槍の餌食になるのが目に見えてるだはっ！」



お前が足滑らせて、自分の槍の餌食になっちまえよ。そんな終わり方がお前に相応しい。

自分の子供を想わないカスめがよ！

お前は…。

父さんと同じだ！

子供を持つ資格なんかない！！

お前の分身でもあるんだぞ…。

どうして、あんな酷い事ができたんだ。

どうして、優しくしてやろうとしなかったんだ。

メルシィーニはお前の優しい温もりを求めていたのかも知れないのに、裏切られて、心までも冷たくなって、死んでいった。

理解なんかできない。

お前には、心なんかないんだよ。

それなら、お前はただのバケモノだ。

人の形をするな。

人間の真似をするな…。



「こんのぉ…赤ちゃんがっ！死ねええっ！」



シュルルルッ…ビュンッ！！



小鈴の動きが、まるでスローモーションで再生されている様だった。

小鈴の隙が大きい。

この機会を逃す訳にはいかない！

俺は剣を捨て、強く地面を踏み込み、小鈴の懐に飛び込んだ。



「うっ…！？」



小鈴の槍の攻撃をかわしながら、距離を一気に詰めていく。

俺はそのまま地面に再び足をつける事なく、相手の鳩尾に踵を強く押しつける様に飛び蹴りを放った。



ズドンッ！！



「だ…はっ！？」



小鈴は表情を苦痛に歪め、手を振るわせ、槍を地面に落とした。



カランッ…！



「お前が今感じた苦痛の何億倍もつらい思いをして、お前の子供は、お前の手によって死んだんだぞ…」



「ぐ…がっ！お…めえ！」



「俺はお前には負けねえよ。自分の子供を気軽に殺せる奴になんて、負ける様にできてねえんだ…！」



「が…ははっ。おもしれえ、だは。子供だって、大人を殺せる…だは」



何を言ってやがる、あの時のメルシィーニは…！



「じゃあ、てめえは！あの時、メルシィーニがお前を殺そうと駆け寄ってきたって、そう見えたんだな！？」



ふざけやがって…！



「それなら、お前の目は節穴だッ！」



そんな事も見抜けねえ目なら、そんなもん捨てちまえ！！



小鈴は俺の言葉が癇に障ったのか、目を充血させ、まだダメージの残る体をふらつかせながら無理矢理起こし、獣の様な目で本能的に俺に襲いかかってきた。

闇雲に攻撃すればいいってもんじゃない！

その攻撃は俺には見えているぞ！？

小鈴の右拳の撃ち下ろす様な攻撃を、俺はかわす様に小鈴の左手側の方に移動した。

小鈴の右拳が俺を追いかける。だから、フックみたいな感じになって、体が伸びる。

それを見て、俺は小鈴の右手首を左手で掴んで、そのまま流す様に手首を引っ張って下に大きくバランスを崩させた。



ここだ！くらえっ、クソ女！！



小鈴のバランスを崩させた後、間髪入れず、俺の右拳で小鈴の頬を思いっきり殴った。



バキィッ！！



「がふっ！」



ドスンッ！



俺の右拳の突きに耐え切れず、小鈴は地面に大きな振動を起こし、倒れていった。

お前には、絶対に負けねえ…。

死んでも、負けたくねえ！



「！？」



その時、別の方向で俺をじっと見つめる顔が視野に入って、ふと気になってその方向に顔を向けた時、少し呆けた口元とは違い、鬼の様な鋭い目の視線を俺に向けたグラッチェリの姿があった。



「グラッチェリ…？」



俺と目が合った時、グラッチェリは予想しなかった事を口にしたんだ。



「まさか、君は…」



「矢倉郁人やぐらいくとじゃないよな…？」