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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その262裏

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カツン…。



カツン…。



「こちらにおいででしたのですね」



「ああ、このエキドシソアの芽が育つ様を眺めているとね、不思議と心が癒されるのだよ…」



「どうされたのですか?」



「私の事を気にかけてくれるとは、君は優しいな。特に心に病む事など何もない。私の今まで投じてきた一手があの方の行く道に花を添えられたのかと、思い浮かべてみただけだよ」



「貴方はいつも完璧な存在ではないでしょうか。それは誰もがそう思っている事でしょう」



「それはどうかな…。私はいつも不完全な存在だと自覚しているよ。多くの事象に関わりながら、その結末が必ずしも思い描いたものではない。だがね、それは時にはより良いものに生まれ変わる場合もある。だから、私は特に失望している訳ではないのだよ」



「そうでしたか、何かご無礼がございましたら、申し訳ございません。自重致します…」



「カルデリアス、君こそ素晴らしい存在ではないか。少なくとも、私にとっては。何に対しても気遣いをさせてすまないね…」



「さあ、君が私の元に運んできた話を聞こうじゃないか」



「は、はい!あの方が欠片の行方を案じておられる様で、その事でお話しがある様でした」



「ああ、私も十分に理解しているよ。では、あの方の元へ今一度行くとしよう」



「パラネイヤの球館に向かわれる様で、そちらでお会いしたいとの事でございました」



「いいだろう、ではその様に…」



「しかし、その欠片とは何の事でしょう?」


「あの方の探されている大事な物、とでも言うべきかな。それ以上は私の一存では語る事ができないが、そうだな、君にならあの方も話して下さるのかも知れない。私が球館であの方とお会いした時にでも、話してみるとしよう」



「い、いえ!その様な事は!私の様な者が恐れ多い…。先ほどの言葉は気になさらないで下さい」



「わかった、カルデリアス。また時間がある時にでも話をしよう。君も日々の雑務に追われ、疲れている事だろう」



「は、はい。よろしくお願いします」



「そうだ、ひとつ君に確認しておきたい事がある」



「はい、どうぞ仰って下さい」



「君は最近、ヴァルキリーを目にした事があるかい?」



「あのヴァルキリーでしょうか?」



「そうだ、あのヴァルキリーだよ」



「いえ、目にしてはいませんでしたが、その様な存在がまだこの世界に?」



「いや、その様な情報を耳にしていたのでね。特に気にする事はない…」



「貴方と同じ天使という立場だったと思いますが、今はもう存在しないのだと思っていました」



「そうだね、カルデリアス。では、行くとしようか」



「行ってらっしゃいませ。ラグザエフ様」

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