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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その262

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俺は小鈴ショウレイとの距離を詰めて、記憶の中で見た技を、放った。

俺の手や腕に炎が燃え盛り、それが吸い込まれると、力が大きく上がる。まるで、その炎は誰か俺に力を貸そうとしてくれる、魂みたいな存在。

そして、俺の体は力を宿してくれた人の体に近い状態になる。

だから、技が初めて見たものでも、やり方が理解できれば、体がついてくる。

ただ、その力が解かれた時、力も速さも何もかも、元の俺の能力に戻る。その後、何とか体にその時の技を染み込ませようと努力しても、完成度は力を宿してもらった時と比べて、遥かに劣る。

技によっては、力不足で放てない。

俺に力を宿してくれている内に、相手を倒さなないと。



「お前、やるじゃねえか…。私の体が魔力供給で重厚なお肉になってなければよ、やられていた」



小鈴は、器用にバックステップをして俺との距離を取り、切られた着物の中に身につけていた分厚い革を何度も叩いて、にやりと笑った。

小鈴の分厚い革の右上辺りに大きな窪みができている。

俺の大剣の切っ先は、小鈴の革を突き抜け、奴の皮膚に達していた。だけど、それも大したダメージじゃないらしい。

お話ライオンやキリングと同じく、皮膚が鎧みたく頑丈という事か。

戦ってばかりいるから、遺伝的にも皮膚が異常に丈夫にでもなるのか?

魔力のおかげとか言ってたけど、それだけじゃないだろ。



「あいつ、何で九鳴猫クメナ槍術を使えるの?」



東角猫トーニャ族の技を盗むなんて、腹立たしい…!」



外野が騒いでいるな。特に東角猫トーニャ族が何か文句でも言いたそうだ。

そうだな。

多分、この俺の体に力を宿してくれた人は、東角猫族の様な気がする。

小鈴が言って放ったのと同じ、九鳴猫槍術って言っていた。

そして、今の俺の体の中に、東角猫族の雰囲気を少し感じる。

霧蔵や右京と違って、明らかにこの世界の人間だとわかる。

霧蔵や右京も、この世界の人間と思いながらも、何処か頭の中で、もしかしたら俺のいた世界から送られてきたんじゃないかって、微かな期待がある。

でも、俺に今、力を宿してくれた人はその可能性はないだろうな。姿が違うし、根本的な性格も。それなら、どうして俺なんかに力を貸してくれるんだ?

俺は、この世界のほとんどの奴らをよく思っていないのに。



「気に入ったよ、リョウマ族。期待通りの動きだ。メベヘの腕を落としたのも、今となっては頷ける…」



ハムカンデめ、薄ら笑い浮かべやがって。お前に気に入られたとしても、仲間になんかならねえからな!?

お前は、俺の仲間のパルンガを狂わせて、俺と闘わせたんだ。

今すぐにパルンガを生き返らせてみろ!

俺がこの小鈴に勝ったら、次はお前だって事を忘れるんじゃねえよ!?



「あの小鈴に一撃を食らわせただなんて…」



「もしかして、あいつなら、小鈴を倒せるか?」



周りの奴らは、誰が勝とうがおもしろければそれいいって感じだな。

しかし、小鈴の攻撃を見れば見るほど、吐き気がしてくるぜ。その攻撃が自分の娘に致命傷を与えたんだ。

俺がもし、母さんに会いに行って、いきなり包丁でも刺されたなら、どんなに悲しいだろうな。

何でだよ、どうしてだよって。

理解不能な行為に絶望して、深く悲しむに違いない。



「私も、本気出すぞ!?いいな、小せぇ、赤ちゃん!!」



本気だと?てめえが力を制御できるタイプでもねえだろうよ、単細胞女が!



「来いよ…!俺はお前を許さねえって決めたんだ。必ず後悔させてやる!」



今の俺の能力は、俊敏な力が非常に高い。そして、斬る力も次いで、相当強く感じる。

俊敏な動きは右京を超える。斬る力は、霧蔵と同等の様に感じる。

この今の力に慣れれば、真空斬も、次元斬も使える様になる。

ただ、宿された力の人が槍使いのせいか、どちらかというと突きの方が遥かに力を発揮する様な気がする。

俺の持つ大剣は、突き刺すのにはあまり向いていない。

武器が合っていないのはわかっている。それでも、何とか慣れる事ができれば、俺のやり方にも持っていける様な気がする。



「行くぞぉぉ?」



小鈴が槍を構えた。

気のせいか、槍を少し短く持って構えている気がする。

何か仕掛けてくるな。

それでも、俺は絶対に負けない!
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