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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その248裏

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オデの中に、誰にでも噛みつき、食い殺してしまいそうな別のオデがいる。

もう元のオデには戻れない。

体の中のいろんな所がすごく痛い。そして、どんどん体が内側から膨らんで、破裂しそうな感覚がある。息もしにくくなった。

もうオデは幼獣のまま生きてはいけないんだ。

成獣にならないと、オデの兄弟達みたいに、体が耐えられなくなって死んでしまう。

成獣になったエズアみたいに、神獣と呼ばれ、みんなに崇められる存在になりたかった。

ほとんどのゼドケフラーは成獣になれず、幼獣のまま死んでしまう。

ベルダイザーを早く探さないといけなかった。

ベルダイザーはそこまで速くはないけど、一度噛みついたら離さない。体が少し薄い赤色の毛をしていて、魔力のせいかたまに金色に光る。お腹に青い模様をしている。

昔にゼドケフラーを遠目で見た事がある。

同じ幼獣のゼドケフラーが戦っていて、あともう少しのところでベルダイザーに倒された。

その時のオデは恐くて、震える事しかできなかった。

そして、ケガをしていたベルダイザーはそのまま逃げていった。

でも、オデはあの時よりはずっと強くなったんだ。

今なら、ベルダイザーを倒す事ができるって、思えるんだ。

オデは城にいた住人から何かされたのかも知れない。だから、ベルダイザーの幻覚ばかり見る。何体も倒しても、最後にはベルダイザーじゃないと知るんだ。

倒した相手を食べようとしても、その魔力じゃ意味がない。

だから、そのまま何も食べないでいる。

もうあきらめて、オデの仲間達の様に、死に場所を探そうか。

母獣マグや成獣のゼドケフラー、そしてゼドケフラーを祭り上げる住人達に期待されて。それでも、成獣になれなかった。

幼獣のまま、死んでしまうなんて。

みんなも恥ずかしくて、幼獣のまま死ぬ姿を見られたくないから、森の奥、草木に囲まれた地面にうずくまって、誰にも見られない様に死んでいくんだ。



ギィィ…ッ!



誰だッ!?



「さあ、お前の真の戦いが、待っているぞ」



「ガルルルルッ!!」



「さあ、しっかりしろ。パルンガ、お前の出番だ」



「鬼乱技、幻灯惨げんとうざん…」



「グルルルッ…」



「う?」



まさか。

…こんなところでまた会えるなんて。

ひさしぶりだ。

オデの事、覚えてたのか。

クラビタ。



「お前はまだ、幼獣のままか。俺はもう立派な成獣になった。次は、お前の番だぞ」



オデと同じくらいに生まれて、どっちが先に成獣になるか勝負だって言ってた。それなのに、クラビタは消えた。

もう死んでしまったかと思ってたのに。



「さあ、こっちにおいで」



「クラビタ!」



「ほら、下に見えるあの人集りの方に目をやって」



「あんなにたくさんのベルダイザー!!すごい数だど!?」



「よく見ろ、そうじゃない。壇上の右側を見てみろ。何が見える?」



小さいベルダイザー?



「壇上の右端の、そのさらに下にいるのが、本物のベルダイザーだ。我々の視力で十分に確認できるよな?」



ベル…ベルダイザー!



何だか、不思議な感じのするベルダイザーだど。

懐かしい…。



「他の者はオーロフ族や東角猫トーニャ族達。お前にとって、何の価値もない輩だ」



え?でも…。

そうだ、ベルダイザーじゃない。

じゃあ、あれがオデが倒すべきベルダイザー!



「ガァオオオッ!!」



「とても強敵だが、相手を欺く行為をしてくるんだ。怯んだ様にも見せて、お前の隙を窺ってくる。躊躇う事なく命を奪い、血肉を食らうといい。お前が幼獣で終わるかどうか、最後の機会だ。逃す様な真似をするんじゃないぞ」



「殺す…!必ず、殺す!」



「そうだ、それでいい」



「…これでサイクロスも、本気を出してくれる」

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