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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その238
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はぁっ…!
はぁっ…!
「食後の運動としては、最適…だろう?」
木刀を持っての稽古、か。何度も木刀で打ち合って、手が痺れた。木刀のかち合う箇所に注力しながら、それに対して体の動きも連動させないと。動きを間違えば、体に電気が走る。
「一撃必殺を狙うかの様な動きばかりでは、中々?相手を捉えるのは、難しいよね。でも、修正されてきた。明日の誇闘会、楽しみさ?」
グラッチェリの身のこなし、やっぱりこいつ、かなり戦い慣れている。もし、手加減なしで来られたら、俺じゃ太刀打ちできないだろうな。
時々、グラッチェリの目に殺気が混じる様な気がするのは気のせいだろうか。それを抑えるかの様に、深く瞬きをして、目を普通の状態に戻そうとしている。
お前は、俺をはめようとしていないよな?
ああ、くそっ!ダメだ、そんな事ばかり考えては。
俺はすぐに誰にでも期待をするクセがあるのかも知れない。そして、期待を裏切られて、心が傷つく。
俺が大人になりきれていないせいか?
大人って。
いつから、大人なんだ?
はしゃげば、大人しくしろって言われるよな。
今よりももっと幼い頃にでさえ、言われたんだ。
何事も、失敗しづらい様に行動しろって事なのかな。
成功しそうな匂いのする方へ、舵を切れって。
そういう事か。
「サイクロスッ!」
カツッ!!
「…今の一撃は、お前の本気か?少し、危なかった」
カランッ、カラン。
「つい、力が入った。でも、そのための木刀だよ。真剣でやって?ないから」
だから、全力でやりますはないよな。ヘタしたら、木刀でも死ぬかも知れないぞ。
グラッチェリは木刀で俺の腰あたりを目掛けて、水平に歪みのない高速の一閃を放ったんだ。
俺もとっさに、それに無意識に反応する事ができた。
木刀同士がかち合い、高い音が鳴り響いて。
そして、片側の木刀が真っ二つに割れて、先が床に落ちて、転がる。
勝負あり、なんてな。
「サイクロス。今のは淀みのない、あまりにも綺麗なひと振りだった。君は、もしかして?才能、あるねえ!」
木刀が割れて、先が落ちたのは、グラッチェリの方だ。
脅威に感じたグラッチェリの木刀をどうにかしないといけないって。
必死で振った木刀は、まるで、次元斬を放つ時の様な軌道を描いた。
霧蔵の次元斬が、俺の体に染み込んで、少しずつ、自分のものになりつつある。
そのうち、謎の炎で力が宿る時だけじゃなくて、普通の時も、使える様になるのかも知れない。
できれば、使う機会がない方がいいのかも知れないけど。
そう都合良くはいってくれない。
覚悟が必要なんだ。
俺は、何が何でも元の世界に戻らないといけない。
そのためには、戦わなくちゃいけない時だって、あるんだ。
「リョウマ族らしい、ひと振りという?事だね。その刀術は、草軌流なのかな?」
そうき流?
何か知らない名前が出てきたぞ。
「いや、違う」
「じゃあ、何流…?」
きちんと習ったわけじゃないのに、何流ですとかはっきり言えないよな。
でも、全く違った名前出すと、それもそれで、霧蔵達にかなり失礼な事なのかも知れない。
「もしかして、知らない、ねえ?」
「さあ。濁流とかじゃないかな…?」
「濁流…」
「いや!わからないんだよ。俺、よく知らないんだ」
「自分の名前も知らないし、リョウマ族なのに、自分の流派も知らないって言うのかい?」
あ、バカにした様な目を向けてきたな。面倒だから、名前くらい言ってもいいか。ただ、城威夜叉流は、次元斬しか知らないからな。それも、技は完璧じゃないし。
「濁流は、強い?」
「え?まぁ…濁流は強いだろう?」
いや、濁流っていうのはまずいだろ!あまりに失礼だろ!
「君を見ていると、ある人物を思い出してしまう。見た目も、印象も、少し違うのにね…」
そう言うグラッチェリの口が、笑っている。
まるで、獲物を狙う鋭い目を隠し切れず、ごまかそうとするかの様に。
まさか、今のを次元斬と捉えて、霧蔵と俺を重ねて見た?
そうなのかな。
でも、この街のリョウマ族と話した時に、霧蔵とは時代が合っていない様な気がした。
少し時代が重なっているとしても、少なくとも、年は明らかに向こうが何十年も上だろう。
重ねて見る方がどうかしてる。
でも、それは俺の世界での感覚だ。
この世界ではかなり長生きして、見た目の若さも結構長く保つのかも知れない。
グラッチェリは変わった奴だ。
でも、その変人の隠れ蓑に垣間見える、狼みたいな目は何だ。
お前は何を狙っている?
グラッチェリ。
「きっと僕の勘違いだ。それは間違いない。ただ、君は名前がないと言う。それは…」
「名前を忘れたのかい?」
名前を言わないのが、かえって怪しまれる事になるのか。それなら、言った方がいいのか。
本当は、もう捨てたいんだ。
少なくとも、この世界では。
俺の名前じゃない。
もう1人の俺に、名前は独占されたんだ。
だから、俺は名無しだ。
それでいいじゃないか。
世の中には、そういう子供だっているはずだ…。
そのうちの1人だって、そう思ってくれればいいんだよ。
でも、ヘタに目の前のグラッチェリを敵に回すくらいなら、もう一度、最後に一度だけ、名乗った方がいいのかも知れない。
こいつは、きっと霧蔵の事が嫌いなんだろう。
俺は霧蔵じゃない。
それを証明すればいいんだ。
それなら、言うよ。
本当に、最後だ。
「君は…」
「いや、俺は!」
「矢倉郁人じゃないよね?」
「!!?」
「とても面白い反応をするじゃないか。君は彼とは見た目も、性格も違うのに。少し引っ掛かる。君は剣を使うのに、身のこなしが、何か拳術の使い手だと思わせる動きを見せる」
グラッチェリは、もう1人の俺を知っている!?
こいつ、もう1人の俺に対して敵意を持っていたのか?
お互いに転生して、姿が違うのは当たり前、性格も、この世界に俺より長くいてそうだから、変えられてしまったんだろう。
俺は別に、その拳術ってのはやってないし、この世界でも教わっていない。
俺の動きでそれを感じるのは勘違いだ。
もう1人の俺は、この世界で誰かに教わったのかも知れないけどな。
でも、元々は同じ人間。当然、俺と似ているところがあるのは不思議じゃない。そこを直感で悟られたのか?
もう1人の俺がグラッチェリに何をしたのかわからないけど、これは濡れ衣ってやつだ。
でも、同じ名前ではありますが、って言った瞬間、同一人物って見られる気がする。
弁明なんて、聞かないだろう。
ごまかすと、見透かされる。
だから、言うしかないんだ。
本心を。
「あんな奴と、一緒にするんじゃねえよ…!」
俺の中で、危機回避のため、とっさに安全地帯に舵を切った。
多分、これが正解だったと思う。もう1人の俺が、グラッチェリに何をしたのか全くわからないけど、そもそも、もう1人の俺は、何か噂を聞くと親近感が湧かないんだよな。俺よりも数十段上方修正された人物って感じがして、気に入らねえし。
だから、俺の中では別人だ。
「その反応、確かに別人の様だね。同じリョウマ族だし、似ているのも仕方がないよね。気を悪くしたのなら謝るよ。君はサイクロスだ。決して、もう名無しではないからね…」
はぁっ…!
「食後の運動としては、最適…だろう?」
木刀を持っての稽古、か。何度も木刀で打ち合って、手が痺れた。木刀のかち合う箇所に注力しながら、それに対して体の動きも連動させないと。動きを間違えば、体に電気が走る。
「一撃必殺を狙うかの様な動きばかりでは、中々?相手を捉えるのは、難しいよね。でも、修正されてきた。明日の誇闘会、楽しみさ?」
グラッチェリの身のこなし、やっぱりこいつ、かなり戦い慣れている。もし、手加減なしで来られたら、俺じゃ太刀打ちできないだろうな。
時々、グラッチェリの目に殺気が混じる様な気がするのは気のせいだろうか。それを抑えるかの様に、深く瞬きをして、目を普通の状態に戻そうとしている。
お前は、俺をはめようとしていないよな?
ああ、くそっ!ダメだ、そんな事ばかり考えては。
俺はすぐに誰にでも期待をするクセがあるのかも知れない。そして、期待を裏切られて、心が傷つく。
俺が大人になりきれていないせいか?
大人って。
いつから、大人なんだ?
はしゃげば、大人しくしろって言われるよな。
今よりももっと幼い頃にでさえ、言われたんだ。
何事も、失敗しづらい様に行動しろって事なのかな。
成功しそうな匂いのする方へ、舵を切れって。
そういう事か。
「サイクロスッ!」
カツッ!!
「…今の一撃は、お前の本気か?少し、危なかった」
カランッ、カラン。
「つい、力が入った。でも、そのための木刀だよ。真剣でやって?ないから」
だから、全力でやりますはないよな。ヘタしたら、木刀でも死ぬかも知れないぞ。
グラッチェリは木刀で俺の腰あたりを目掛けて、水平に歪みのない高速の一閃を放ったんだ。
俺もとっさに、それに無意識に反応する事ができた。
木刀同士がかち合い、高い音が鳴り響いて。
そして、片側の木刀が真っ二つに割れて、先が床に落ちて、転がる。
勝負あり、なんてな。
「サイクロス。今のは淀みのない、あまりにも綺麗なひと振りだった。君は、もしかして?才能、あるねえ!」
木刀が割れて、先が落ちたのは、グラッチェリの方だ。
脅威に感じたグラッチェリの木刀をどうにかしないといけないって。
必死で振った木刀は、まるで、次元斬を放つ時の様な軌道を描いた。
霧蔵の次元斬が、俺の体に染み込んで、少しずつ、自分のものになりつつある。
そのうち、謎の炎で力が宿る時だけじゃなくて、普通の時も、使える様になるのかも知れない。
できれば、使う機会がない方がいいのかも知れないけど。
そう都合良くはいってくれない。
覚悟が必要なんだ。
俺は、何が何でも元の世界に戻らないといけない。
そのためには、戦わなくちゃいけない時だって、あるんだ。
「リョウマ族らしい、ひと振りという?事だね。その刀術は、草軌流なのかな?」
そうき流?
何か知らない名前が出てきたぞ。
「いや、違う」
「じゃあ、何流…?」
きちんと習ったわけじゃないのに、何流ですとかはっきり言えないよな。
でも、全く違った名前出すと、それもそれで、霧蔵達にかなり失礼な事なのかも知れない。
「もしかして、知らない、ねえ?」
「さあ。濁流とかじゃないかな…?」
「濁流…」
「いや!わからないんだよ。俺、よく知らないんだ」
「自分の名前も知らないし、リョウマ族なのに、自分の流派も知らないって言うのかい?」
あ、バカにした様な目を向けてきたな。面倒だから、名前くらい言ってもいいか。ただ、城威夜叉流は、次元斬しか知らないからな。それも、技は完璧じゃないし。
「濁流は、強い?」
「え?まぁ…濁流は強いだろう?」
いや、濁流っていうのはまずいだろ!あまりに失礼だろ!
「君を見ていると、ある人物を思い出してしまう。見た目も、印象も、少し違うのにね…」
そう言うグラッチェリの口が、笑っている。
まるで、獲物を狙う鋭い目を隠し切れず、ごまかそうとするかの様に。
まさか、今のを次元斬と捉えて、霧蔵と俺を重ねて見た?
そうなのかな。
でも、この街のリョウマ族と話した時に、霧蔵とは時代が合っていない様な気がした。
少し時代が重なっているとしても、少なくとも、年は明らかに向こうが何十年も上だろう。
重ねて見る方がどうかしてる。
でも、それは俺の世界での感覚だ。
この世界ではかなり長生きして、見た目の若さも結構長く保つのかも知れない。
グラッチェリは変わった奴だ。
でも、その変人の隠れ蓑に垣間見える、狼みたいな目は何だ。
お前は何を狙っている?
グラッチェリ。
「きっと僕の勘違いだ。それは間違いない。ただ、君は名前がないと言う。それは…」
「名前を忘れたのかい?」
名前を言わないのが、かえって怪しまれる事になるのか。それなら、言った方がいいのか。
本当は、もう捨てたいんだ。
少なくとも、この世界では。
俺の名前じゃない。
もう1人の俺に、名前は独占されたんだ。
だから、俺は名無しだ。
それでいいじゃないか。
世の中には、そういう子供だっているはずだ…。
そのうちの1人だって、そう思ってくれればいいんだよ。
でも、ヘタに目の前のグラッチェリを敵に回すくらいなら、もう一度、最後に一度だけ、名乗った方がいいのかも知れない。
こいつは、きっと霧蔵の事が嫌いなんだろう。
俺は霧蔵じゃない。
それを証明すればいいんだ。
それなら、言うよ。
本当に、最後だ。
「君は…」
「いや、俺は!」
「矢倉郁人じゃないよね?」
「!!?」
「とても面白い反応をするじゃないか。君は彼とは見た目も、性格も違うのに。少し引っ掛かる。君は剣を使うのに、身のこなしが、何か拳術の使い手だと思わせる動きを見せる」
グラッチェリは、もう1人の俺を知っている!?
こいつ、もう1人の俺に対して敵意を持っていたのか?
お互いに転生して、姿が違うのは当たり前、性格も、この世界に俺より長くいてそうだから、変えられてしまったんだろう。
俺は別に、その拳術ってのはやってないし、この世界でも教わっていない。
俺の動きでそれを感じるのは勘違いだ。
もう1人の俺は、この世界で誰かに教わったのかも知れないけどな。
でも、元々は同じ人間。当然、俺と似ているところがあるのは不思議じゃない。そこを直感で悟られたのか?
もう1人の俺がグラッチェリに何をしたのかわからないけど、これは濡れ衣ってやつだ。
でも、同じ名前ではありますが、って言った瞬間、同一人物って見られる気がする。
弁明なんて、聞かないだろう。
ごまかすと、見透かされる。
だから、言うしかないんだ。
本心を。
「あんな奴と、一緒にするんじゃねえよ…!」
俺の中で、危機回避のため、とっさに安全地帯に舵を切った。
多分、これが正解だったと思う。もう1人の俺が、グラッチェリに何をしたのか全くわからないけど、そもそも、もう1人の俺は、何か噂を聞くと親近感が湧かないんだよな。俺よりも数十段上方修正された人物って感じがして、気に入らねえし。
だから、俺の中では別人だ。
「その反応、確かに別人の様だね。同じリョウマ族だし、似ているのも仕方がないよね。気を悪くしたのなら謝るよ。君はサイクロスだ。決して、もう名無しではないからね…」
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