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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その234

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「心眼…」



その名前を俺は聞いた事がある。

何処で?

わからない。

その名前を思い出そうとすると、不思議と何かが俺の頭の中の奥へ奥へと遠ざかって、中々捕まらない。

そんな感覚がある。

くそ…。

でも、神仏候エンゲルシスの2人に分かれた片方は、城の地下に閉じ込めて、そして気づいたら消えていたんだよな?

俺の後ろにいる奴は、どっちだ?

地下から消えた奴か?

それとも、その前に消えた奴の方か?



「!?」



急に体が軽くなる。

俺の後ろにいた奴の気配が消えた。

振り返ってみると、やっぱりそこには誰もいない。

気づけば、周りの街から浮かぶ明かりが戻っていた。

ヒソヒソと声が聞こえてくる。

俺が城に向けて真空斬を放ったからだ。ハムカンデに逆らった、余計な事をしてくれたとでも言う様に。

従順なお前らの方が、どうかしてる。

ハムカンデはそこまで信用できる奴じゃないだろう。

あいつは、胡散臭い奴じゃないか。



…。



家からぼんやりとした明かりが落ちる地面に、血溜まりの中のシブの頭が見える。

その口元は、少し微笑んでいた。

血の気をなくし、もうシブは動かない。

指先が震えてくる。

あれだけしゃべる奴が、もう何も。

何も話しはしないんだ。

もう、苦しまなくて済むから、うれしくて微笑んでいるのか?

最後に俺に言ったよな。

ハクマ、良かったって。生きていたんだね、って。

本音が言えて、もう思い残す事はないのか?

本当のお前は、暮梨くれなしみたいに、棘で作った壁の中に、優しさが溢れていたんだ。

ああ。

お前とは色々とあったけどな。

助かったよ。

ありがとうな…。

でも、この世界じゃ、俺みたいに弱いと、誰も助けられないんだ。

もっと俺が強ければ、状況が違ったのかも知れない。

家族もバラバラになったからな。

きっと、俺の世界でも、何も役に立たない。

遠くの方で、クスクスと笑ってる奴がいる。

ハムカンデにケンカ売って、正気に帰って、後悔してる様に映ったか?

不幸そうな奴を見るのは楽しそうだもんな。

でも、俺は後悔してねえよ。

血塗れになって死んだシブが、微笑んでるんだよ。

ああ。

俺はあいつに勝つぜ。

言葉巧みに、自分の思うままに周りを人形みたいに扱って、気に入らなければ捨てていく人でなしは許せないよな。

やってやる。

だから、安心して眠ってくれ。

もう、お前を束縛するものは何もない。

古球磨ごくま族という種族の名すら、束縛できないんだ。

もう、安心だ。



…。



シブをこのままここに置いては行けないな。

何処かに持っていって、埋めてやろう。



「?」



ゾクッ!



何だ、この強烈な圧迫感は?

息ができない。

俺の後ろに、何がいるんだ…!?



カツッ。



カツッ。



「…あ」



ゲル!!?



「…シブ」



ゲルはシブの名前を読んだ後、うねった前髪から垣間見える目で、心まで凍りつきそうなとても冷たい目で俺を見た。

でも、俺を殺そうとする様な目じゃない。

俺は恐くて、その目から逸らす事も、睨み返す事もできなかった。



カツッ。



カツッ。



ゲルは俺を見つめた後、目を逸らして、シブの死体を持ち上げると、ゆっくりと城の方に向かって歩いていった。

ゲルが俺に言いたかった事はわかってるんだ。

死なせやがった。

そう言いたいんだろう?

ゲルは状況がわかっていたから、俺に刀を向けていない。

俺に守れる力なんてなかったんだ。

ごめんよ…。

俺。

何もできなかった…。


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