上 下
331 / 441
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その233

しおりを挟む
か、体が動かねえ…!

これはハムカンデの仕業なのか?

お前は、シブの体を自動的に時間を遡らせて傷を回復させる様にしてたはずなのに、その仕組みを、解いた。

自分の駒として、思う様に動かないから。

もう用済みなんだって事なんだろ?

お前の命じゃないのに、まるでおもちゃみたいにして、いらなくなったから、電池を抜いて捨てるのか?

最初からこうなる事も考えてやってたとしたら、もうお前は人間じゃない。

お前みたいな奴、許せる訳がない。

だから、俺がシブの無念を晴らしてやるって思った。

俺の剣から空気伝導の斬撃を飛ばして、それをハムカンデのいる屋上までたどり着かせた。

手首に浮かぶ紫色の炎が、少しだけ俺に力を貸してくれたおかげだ。

俺の攻撃は、ハムカンデに直撃した様に見えた。

なのに、この金縛りの様な力は…。

まさか、ハムカンデは何ともないのか?



「ぐぎぎ…っ!」



う、動かねえ!

俺の体はどうなったんだ?体中の神経全て抜き取られて、まるで木にでも変えられたみたいだ。

俺がこの場所から攻撃した城の屋上は、今もまだ煙が上がってよく見えない。

ハムカンデに攻撃は当たったのか?

それとも、いなされた?

もしハムカンデが無傷なら、反撃してくるだろうな。だけど、ここから城の屋上までだいぶ距離があるのに、ハムカンデは遠くから俺に触れてもいないのに、変な術で仕掛けてこれるものなのか?

それに、ここまで動けないくらい強力なんて…!

どうにかできる気がしねえ。

でも、諦めたらおしまいだ。

何とかこの術から抜け出さないと。



「ぐぬ…っ!」



はあっ!

体が全く動かねえ!

こんな状態で、次に何かの攻撃を受けたら、おしまいだ。

早く、動けぇぇっ!



「!?」



何だ?

急に辺りが…。

明かりを一斉に落とそうとした?

俺の勘違いか?



「ここに…お前達の居場所は存在しない」



「!?」



「何故、争いを好むのか」



「あ、争いを…好むだって?」



誰の声だ?

近くから聞こえた様な気がした。



…!



やっぱり勘違いじゃない。

辺りの明かりが落ちて、そのまま真っ暗になった。

城や家の明かりや、空の赤黒い光も全て、明かりという明かりがなくなった。

闇の中に俺1人、取り残された。

いや、もう1人の存在が近くにいる。

…俺の後ろに、誰かの気配がする。

俺の後ろにいるのは、ハムカンデ??

でも、何か違う。

俺への威圧は感じるけど、ハムカンデとは違う。

何か、鋭く、もっとまっすぐに俺に突きつけてくる様な感じだ。



「その荒ぶる感情はわざわいをもたらす。そして、私の設けた禁忌にも触れたのだ。お前に赦しを与える理由など、存在せぬ…」



「ま、待て…!」



そうか!何度も俺の前に突然現れて、意味不明な警告をして消えていく。お前は、裸眼か!?



「この清らかだった地をこれ以上、他所者に踏み弄られる事に堪え兼ねるのだ。案ずるが良い、お前の身体に暫くの間、命は吹き込まれたまま。お前の感情は薄れ、意識は朦朧としながら、ゆっくりと死に向かう。その時が来るまで、思い出に身を委ねるが良い」



俺を、殺すって言ってるのか?

ホルケンダが言っていた事は、やっぱり真実か?

この場所を守るためにオーロフ族達を相手に争った神仏候エンゲルシスが2つに割れ、善と悪が生まれたとか。そこから、空の処刑…、感情の搾取が始まったとか言ってたよな。

お前のしわざか?

お前が神の様な存在が2つに割れた、悪の方なのか?



「さあ、もうお前に猶予は与えぬぞ…」



「裸眼!?」



「裸眼…。そうだな、私はお前にそう名乗ったのだ」



何だ、その微妙な反応は。お前が俺に名乗った名前なのに、まるで認めてねえ様な名前だとでも言いたそうだな。

まるで、俺みたいだ。

俺も自分の名前を言いたくなくて、俺の名前はテテだなんて言ったりもした。

そうだよな。

元々は1人だから、お前は別の名前がある。

それが、神仏侯か?

いいさ。

俺だって、本当の名前なんて、言いたくもない。

特に、お前みたいな神のなり損ないみたいな奴には。



「…さあ、もう時間だ」



お前は、見分けがつかないんだろうな。誰が悪い奴で、誰がまともな奴だなんて。

それはそうだよな?

お前自体が、狂ってやがるんだから。



「お前のもう1人は、何て言ってるんだ?」



「何?」



「お前は2人で1人、今のお前は半人前ってやつだ。もう1人は、お前のしでかした事、知って許して、やらせてるんだよな?」



「お前に私の存在意義など語りはせぬ。もしその様な事を耳にしたというのなら、ただの戯れ事。気に病む事ではない」



「今のは、俺の質問に答えたのか?もう1人の奴は、裸眼、お前に何て言ってるんだって、聞いてんだよ!」



「愚かな…」



愚かなのは俺か?

この土地を取られて、ここで勝手に殺戮劇を繰り広げられたら、イラつく気持ちも当然だ。

でも、神みたいな存在なら、元凶が誰なのかわかるんじゃないのか?

シブは俺を助けようとしてくれた。ハムカンデはそのシブを殺したんだ。そいつへの攻撃は許されない、それは自分の土地でやるからって。だから、死をもって償えって、そう俺に言うんだな?

神ってやつは、自分の事ばかり気にするのか?

誰が犠牲になろうと、誰が悲しい目に遭おうと、自分に害がなければ、それでいいって。



「お前達住人の心理では、遠く及ぶ領域ではないのだ。私に抗うなど、愚かな事だ」



俺の小さな脳みそで考えても、お前達の考えに遠く及ばないって言いたいのか?

この世界は神しか住んでねえのか?

そうじゃねえだろう。

だったら、ここに住む奴らのわかる様に言わねえと…。

何も!

伝わらねえ!



「!?」



「ぐぎぎ…っ!!」



「ぐぉぉ…っ!」



どうした!?俺の体は少しずつ動いてるぜ。お前の力は絶対じゃない!お前の感情を奪う攻撃だって、俺なら…耐えてやる!

お前なんて、大した存在じゃない!




「…お前は私に言ったな?」



「ああ?」



「もう1人の意見を聞きたいと」



「ならば、私の元へ連れて来るのだ。そのもう1人の存在を」



もう1人の存在?

ホルケンダの話だと、あの城の地下に監禁したはずだって言ってたな。でも、その存在も消えたとか言ってた様な。



「私の存在意義を問おうというのだろう?ならば、その機会をお前に与えてやろうと言っているのだ」



「さあ、連れて来るが良い」



「心眼を」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

気づいたら隠しルートのバッドエンドだった

かぜかおる
ファンタジー
前世でハマった乙女ゲームのヒロインに転生したので、 お気に入りのサポートキャラを攻略します! ザマァされないように気をつけて気をつけて、両思いっぽくなったし ライバル令嬢かつ悪役である異母姉を断罪しようとしたけれど・・・ 本編完結済順次投稿します。 1話ごとは短め あと、番外編も投稿予定なのでまだ連載中のままにします。 ざまあはあるけど好き嫌いある結末だと思います。 タグなどもしオススメあったら教えて欲しいです_|\○_オネガイシヤァァァァァス!! 感想もくれるとうれしいな・・・|ョ・ω・`)チロッ・・・ R15保険(ちょっと汚い言葉遣い有りです)

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

転生者はめぐりあう(チートスキルで危機に陥ることなく活躍 ストレスを感じさせない王道ストーリー)

佐藤醤油
ファンタジー
アイドルをやってる女生徒を家まで送っている時に車がぶつかってきた。 どうやらストーカーに狙われた事件に巻き込まれ殺されたようだ。 だが運が良いことに女神によって異世界に上級貴族として転生する事になった。 その時に特典として神の眼や沢山の魔法スキルを貰えた。 将来かわいい奥さんとの結婚を夢見て生まれ変わる。 女神から貰った神の眼と言う力は300年前に国を建国した王様と同じ力。 300年ぶりに同じ力を持つ僕は秘匿され、田舎の地で育てられる。 皆の期待を一身に、主人公は自由気ままにすくすくと育つ。 その中で聞こえてくるのは王女様が婚約者、それも母親が超絶美人だと言う噂。 期待に胸を膨らませ、魔法や世の中の仕組みを勉強する。 魔法は成長するに従い勝手にレベルが上がる。 そして、10歳で聖獣を支配し世界最強の人間となっているが本人にはそんな自覚は全くない。 民の暮らしを良くするために邁進し、魔法の研究にふける。 そんな彼の元に、徐々に転生者が集まってくる。 そして成長し、自分の過去を女神に教えられ300年の時を隔て再び少女に出会う。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています

真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。 なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。 更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!  変態が大変だ! いや大変な変態だ! お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~! しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~! 身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。 操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

処理中です...