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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その229

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お前は人殺しなんだ。暮梨くれなしと同じな訳がない。

お菓子なんて、誰もが好きだろう?

シブを暮梨と重ねるなんて、暮梨がかわいそうだ。

暮梨は何も悪い事をしていない。

ただ、素直に話していただけなんだ。

お菓子が好きな、普通の女子だった。

刀みたいな相手を殺せる武器なんて、あいつは持っていないんだよ。当然、シブみたいに怒り任せに相手に斬りかかる訳がないんだ。

バカげてやがる。

シブは同族と一緒に他人の村に入り込んで、その村の奴らの心に入り込んで、隙をついて殺したとか言ってたよな?

そうして他人の村を奪って、住みつくなんて。最悪な寄生虫だ。

最低だぜ。

そんな種族なんて、滅びちまえよ。

なあ?

暮梨。お前だって、同じに見られたくはないはずだ。

お前だったら、ぶっ飛ばせとか言いそうだよな?

そうしてやろう。

だけど、俺はもう時間がない。

その役割はオーロフ族に譲ってやる。

例えば、近くにいる浮浪殲滅部隊の奴らとかにな。

俺は消札けしふだを手に入れた。

これを渡す相手を間違えなければ、俺はこの街から出て、またギルロ探しの旅に戻れる。

まず優先は、こっちの方だ。



「これがエズアにやられた呪縛だ。こんな醜い女、見た事がない…」




確か城の1階で暗闇の中で戦っていた時、自分の鏡は全て割ったって。もう二度と、自分をかわいいなんて思わないなんて、言ってたな。

だけど、今はどうだ?

お前がやってきた報いが今、お前に襲いかかってるんだよ。

お前ら古球磨族はどのくらいの人達を殺してきてんだよ。

その被害者は、絶対に許してはくれないだろうよ。



…。



だけど。

俺はこの世界に来て、元の世界では絶対に持たなかった剣を持っている。

この剣は、人を殺せるんだ。

そして、自分が生きるため、俺は相手を倒した。

俺は、暮梨…。

変わっちまった俺を、許してくれるか?

…受け入れてくれるか?

俺は、この剣で相手をやっちまったんだよ。



…。



そう。

こいつの目。

シブの目に浮かぶ恨みの炎の奥に、悲しくて、淋しいって、そんな声が聞こえてくる様な気配を感じないか?

そうだ。

フリーマーケットに出店した次の日に見せた、暮梨の目だ。

暮梨、お前のあの日の目がここにある。

お前は、俺を裏切り者として見ただろうな。

俺だけは、来てくれると思っただろう?

お前は、俺を恨んだ。

裏切られたと思った分、深く傷ついていたんだ。

でも、その目は俺に…。

救いを求めてたのに。

俺は、何もしてやれなかったよ。

俺も、父さんの事があって、余裕がなかった。



…。



俺の首から血が流れ落ちる。シブに斬られた傷口は完全に塞がっていないんだ。

一時的な止血なんて、その場限りだ。

早く、行かないと。

何とかあの猫女やメルシィーニの所まで行かないと。

このままだと、命が危ない。



「ハ、ハクマァァッ!」



悪く思うなよ、シブ。

俺は、自分の事も重要なんだ。

それは、お前も同じだろう?

浮浪殲滅部隊の奴らに顔の事言われてたって、また、どうせその傷も良くなるだろ?

そうしたら、また開き直って。

お前は俺を殺そうとする。

また…。



「ハクマァァッ!」



暮梨、お前ずるいぜ。

俺に責任を押しつけやがって。

お前のお菓子なんて、もらわなければ良かった。

そうすれば、お前と話す事もなく、お前が引越しても気にも止めなかったのに。

お前。

見かけに寄らず、いい奴だった。

でも。

今は、俺は自分の思った事を優先させる。

それが。



「ハクマァァッ!!」



俺の。

俺の、生き方。



弁帝街べんていがいで偉そうにしてるが、この様は古球磨ごくま族に相応しい醜さだな」



お前の生き方は、どうだったんだよ?

暮梨。

思った通りの生き方ができたか?

お互いに、親に左右されたのかもな。

お互いに器用じゃない。

それでも。

この先、生き方なんて、いくらでも変わるのかも知れない。

俺。

変わるのかも、知れなかった。

俺の人生、可能性なんて、大してないんだよ。

お前の方が、未来は明るい。

そうだろ?

俺は、もう終わり。



「ハクマァァッ!何処に…いるんかぁぁ!」



「!?」



「貴様ッ!何処から現れた!?」



「こいつが、噂のリョウマ族か!?」



古球磨ごくま族の誇りなんて、そんなもの、捨てればいい。

お前は、本当の自分らしく、生きたらいい。

そんな事、軽々しく言えないのかも知れないけど。

本当はずっと、気になってた。お前は本当にハクマの事、殺したいと思ってたのかって。

殺さないといけなかったって、思わないといけないって。

お前の心から、時々、そんな声が聞こえてきてたんだよ。



「ハクマッ!ハハッ!戻ってきたんか!ハハッ!今、お前を…!」



バサッ。



「ほら、これでお前の顔の傷は見えなくなった」



「もう、安心だ…」



暮梨、待たせたな。

お前のピンチだもんな。

お菓子仲間の俺が来たからな。

もう。

大丈夫だ。
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