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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その228

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シブが怒り任せに刀を振るから、城の外で待ち構えていた浮浪殲滅部隊の奴らが、道を開けた。

その開いた道を、俺も通ろうと、シブの後に続いたんだ。

でも、シブの奴、狙いもなく無造作に刀を振り回すから、ヘタに近づき過ぎると、俺に当たる。

でも、それが奴の狙いか。

もっと、先に抜けていってくれ。それか、浮浪殲滅部隊がシブをもっと避ける様に距離を取ってくれ。

そう願っていた時、目を見張る出来事。

浮浪殲滅部隊の1人と俺の視線が合った。

それは偶然だと思ったけど、でも正直、隠れ布で姿が隠れる限界の1時間は超えている気もする。

俺はすぐに、そのいた場所から動いた。それで、俺と目が合った浮浪殲滅部隊の目が合わなくなった。

良かった、さっきのはただの偶然だ。

それでも、俺のイヤな予感は消えない。

当然だ。時間的には隠れ布の効果がなくなり、俺はいつ姿を現してもおかしくない。

だから、俺はそうなる前に、シブと浮浪殲滅部隊の開いた空間を、今にでもすり抜けるしかない。



「シブめ、俺達がいるというのに、お構いなしに刀を振るうとは!」



「シブ!刀を納めろ!」



浮浪殲滅部隊の言う事も最もだろう。でも、シブは自分の感情を抑える事なんかできる訳がない。

連携を取るどころか、こいつはさっきの1階にいた奴らみたいに、きっと浮浪殲滅部隊にも刀を向けるに違いない。

でも、仲間割れをするのなら、好きにすればいい。

この浮浪殲滅部隊も、俺を捕まえにきたんだろうから。

よく考えたら、お前達は仲間なんていない、か。

利用価値がなくなったら、今度は裏切りを恐れて、相手を殺す。

そんな感じだろう?

この世界に来て、俺もよくわかったんだよ。

切り株街の奴ら、あいつらは最初は優しくしてくれたのに、俺が自分達の知っている矢倉郁人やぐらいくととは違うと思った途端、俺を騙して殺人集団の《冬枯れの牙》に差し出しやがった。

猫娘もそうだ。ご飯食わせてくれたり、この街を出るのに協力しようって、そんな話をしてたのに。もう2度目だ、裏切りはよ。何で、城の奴に俺が消札けしふだを取りに侵入するって、話しちまうんだよ。

そしてパルンガ。

お前は、俺がベルダイザーを探してやってるなんてウソをついて、お前はそれを見破って俺に失望したのに、俺が殺されそうになった時、助けに来てくれたよな。

でも、今のお前は、俺の事を殺すって言ったんだ。

本能に従ったまでか?

それならそれでいいよ。

結局は。

みんな、裏切り者だ。

シュティールだって、きっとあいつもそうだ(いや、あいつはそのままストレートに裏切り者のままだ)。

しもべだって、俺を殺して転生させた。ギルロを探せたって、きっと俺を地球に戻す気なんかないんだ。

俺もこのままこの世界にいると、人の事を信じられなくなって、何でも倒そうとしちまうんじゃないのか?

そうして自暴自棄になって、この世界の奴らと同じ様に冷酷になる。

そうならないと、きっと生き延びられない。

そうだろ?

本当は、ここにいる浮浪殲滅部隊だって、シブだって、倒した方が今後の自分の身の安全を考えると、それが一番いいんだ。

相手の事を考えるな。

自分の事だけを…考えようぜ。



「うう…!」



シブはまだエズアの致命傷状態から時間が遡りしていない。ハムカンデの彫魔法ジェルタの効果が鈍いのか?

無理して刀振ってるからだ。

でも、今が絶好の機会。

今、こいつの横をすり抜けてそのまま黒い灯籠の外に出よう。

よし、今だ!

隠れ布の効果が切れる前に。



「傷口が包帯の隙間から見えてるぞ、こいつ。間近で見ると、実に醜いな」



古球磨ごくま族はみんなこいつみたいに顔がぐちゃぐちゃになれば、少しは大人しくなるだろう」



俺がシブの側を通ってる時に浮浪殲滅部隊の奴ら、急にシブに寄ってきたから、危うくぶつかるところだった。

でも、うまくすり抜けたぞ。



「このまま死んでくれた方がありがたい…。もう自分の顔を見ても絶望しかないだろう」



浮浪殲滅部隊も街を守れるだろうし、古球磨族は不要と思ってんだろうな。

それにしても、こいつら。

シブは夜にも出くわしたけど、オーロフ族に対しても何か企んでるところがあるから、お互い様か?

独断での行動じゃない気がする。誰かの指示かも知れない。

ハムカンデじゃないだろう。ハムカンデもオーロフ族だ。

しかし、何処かでみんな、互いを敵視している。こいつらだけじゃないんだ。

この世界に住む以上、仕方がない事なのか?

シブは奴らの言葉に苛立った目を向けて、そして血塗れの顔を手で隠した。

この世界の奴らの年齢規模が全くわからないけど、少なくとも、このシブは俺とあんまり年が変わらない様な外見をしている。

…傷だらけの顔の事を言われて、当然傷つくよな。シブの目もそう語ってる。

でも、そんな事、俺の知った事じゃない。

俺が逃げる絶好の機会ができたんだ。

むしろ、感謝…だよな?



















「なあ?」



「は?」



「矢倉?お前聞いてたのかよ。ハロウィンはトリックオアトリートって言うんだぞ」



また中学生の教室。もういいだろ?

教室の窓から日が赤く燃えてるのが見える。夕方まで俺は何をやってんだ?

学校の授業は終わってんだろ。



「そう言ったら、私がクッキーをあげるんだよ。みんな喜んでくれてさ、10月を楽しみにしてくれてたんだ」



暮梨くれなしがこの学校に引っ越して来る前にいた学校での事だろうな。

田舎の方が幸せだったんだろうな。確か、暮梨の父親が出世コースに乗るために、この辺りの支店に来ないといけないとかだったよな。

災難だったな。



「お前も、そう言うんだぞ?」



「やだよ、俺。子供じゃあるまいし」



「子供じゃん!」



何を!まぁ、金稼いで生活してる訳じゃないしな。そうかもな。でも、はっきりと子供なんて言うんじゃねえよ。悲しくなるじゃねえか。




「でも、あまり親の事で肩落とすんじゃないよ。親とうまくやれなくても、お前は成長してるんだからな!」



「!?」



そうか。俺、この時期は父さんが特にイヤになって、あまりすぐに帰らなかったんだよな。早く帰ると、何かをやれって強要されてた気がする。だから、遅く帰ろうとしてたんだ。

暮梨は、俺とは何でも話すけど、他の奴らと話していても、距離があったな。暮梨は口が悪いし、女子から怖がられてた様だった。別に、こいつは悪い奴じゃない。何に対しても純粋なだけだ。



「がんばって生きようぜ。矢倉。私もがんばって菓子職人になるからな!」



「お、おぉ」



菓子職人?それになりたがってたかな?まぁいいや。記憶も曖昧だしな。



「ちなみに、これ。いい匂いするだろう?」



何だ、リップスティック?メイプルシロップみたいな匂いしてんな。蟻が口にたかるんじゃねえか?

少なくとも、俺は絶対につけない。



「へへ…。いい匂いするだろう?」



暮梨も口は悪いけど、女を捨てた訳じゃねえ。

唇に塗って、ニヤリと笑った。

お菓子の家ならぬ、お菓子の唇って感じか?

俺は少し戸惑っていたかな。何かを言った方がいいのかも知れないけど、そんな事恥ずかしくて言えない。

だから、少し素っ気なく振る舞うしかなかった。



「これからも、お菓子仲間だ」



「俺は食べる専門。作らないからな」



「私は、食べるのと、作るのが専門だ」



「じゃあ、全部じゃねえか」



今こうして接してみて、俺は暮梨瑠璃くれなしるりと仲が良かったのかもな。

口が悪いけど、それは俺も同じ。

甘い物も好きだし、気兼ねなく話せた。



…。



その暮梨が、フリーマーケットで母親とクッキーの店を出店して、クラスのみんなを誘って…。

俺だけでも行けば良かった。

暮梨のピンチだったろ?

俺だけでも行ってやれば、お前はあそこまで深く傷つかず、また学校を引っ越す必要もなかっただろう?

俺は、何て冷たい奴なんだ。

俺は…。

人でなしだ。



…。



そう言えば、似てる。



…。



だからか?

だから、俺はお前にお菓子の話をしたのか?

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