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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その227

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この街に入ってからか?

いつからだったか、忘れた。

俺の体に力が宿る時は、突然、手から赤い火が吹き、焼ける様に熱くなって、その上に青い炎が現れる。そして、何かを描き始めるんだ。

何かを描き終わったら、赤い炎と青い炎が合わさって、紫色の炎になる。

その紫色の炎は腕に這い上がり、腕の中に消えていくんだ。

だけど、最初から紫色の炎になった状態で、手首を包んだまま、そこから腕に這い上がる訳でもなく、また消える訳もなく留まり続けている。

俺が気づかない間に、紫色の炎になった?

だとしたら、この炎の主は。

優しい人?

わからない。

わからないけど。

この炎は誰を待っているんだ?



「うう…ぐっ」



「シブ?」



シブは頭を抱えて痛そうにしている。

また一定時間が過ぎたから、エズアにやられた致命傷が表れ始めた。傷が深くなり、顔に巻かれた包帯が血で染まり、緩み出す。

今だ。

こいつから遠く逃げる機会だ。



「ま、待て…!」



待てって言われて待つバカいるかよ!お前が走ってこっちまで来いよ。

この幸運を、逃す訳にはいかねえ。

むしろ、お前も幸運かも知れないぞ?

俺の策略にハマって、空に感情抜かれなくて済むんだからな。



バンッ!



くそっ、ここが門か。木漏れ日もないから、いまいち距離が計れなかった。

よし、つかんだぞ。



ギィィ…ッ。



外の明かりが急速に失われていく。もう、夜になる。

この長い階段を下って、後はそのまま走って黒い灯籠を抜けていこう。

そうすれば、空の監視内に入る。

シブがまだ追ってこようとしたら、さっきの計画の続きだ。取り乱しているシブが俺に攻撃しようとした瞬間、空に感情を抜かれる。



ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ。



急げ!



はぁ…!



はぁ…!



よし、階段の終わりだ。

この後は、走り続けて黒い灯籠を抜ければ…。



「!?」




城の階段下にある開けた場所に、妙に人が集まっている。

耳をパタパタさせている。

暗い着物を着ていて、帯刀している奴ら。

そうだ、同じ様な姿の奴が俺に睨みをきかしてた事があって、家に入って猫女に聞いた事があった。

さっき城の中でも、ホルケンダが言っていた部隊でもある。

元々はホルケンダの部隊。今は、ハムカンデの管轄下、オーロフ族による浮浪殲滅部隊。

何で、こいつらがここにいるんだ?

耳をパタパタさせているのは、物音を聞き分けようとしてるのか?

シブにも俺がこの城に侵入する情報が入ってた。

だから、当然、ハムカンデにも情報が入ってたって事か?

俺を捕まえるために、外で待機させていたんだな。

でも、まだ俺の姿は見えていない様だ。

この隠れ布が時間切れになる前に、早く黒い灯籠の外に逃げないと…!

何処を通ればいい?

こいつら、5m間隔で構えてやがる。そして人数は10人。

階段の終わりを中心にして、広く円を描いて立っている。

これは、俺を捕らえやすくするための陣形か?

こいつら、そもそも俺を目で探していない。

耳で探そうとしているんだ。

猫女にはめられたんだろうなとは、城の中でシブとこけしとの会話で薄々わかっていたけど。

俺は本当に、騙されやすいアホなんだろうな。

誰も信用できないって、いい加減理解すればいいのに。

その努力はしてきたはずじゃないか。

どうしても、誰かを信じたいって思う自分がいる。

情けねえな。

本当に。



バンッ!



「ハクマッ!このまま行かせると思うんか!?」



顔に巻いた包帯が血だらけのシブが、刀を怒り任せに振り回して、城の正面門から階段を駆け降りてくる。



ダンッ!



ダンッ!



ダンッ!



ダンッ!



シブの目が普通の目の色に戻っている。傷口が開いて、目に負担がかかり過ぎるから、鬼眼きがんを解いたな。



俺の体から、戦いの記憶が抜けていく様な感じ。

何もできないって、諦めているのか?

この消札けしふだを誰に持っていけばいい?俺に少しの魔力を使って、ハムカンデの彫魔法ジェルタを誰が解いてくれるんだ?

猫女か?

俺が奴の家にうまくたどり着けても、俺は奴から飲まされた裏切り防止の毒薬が効いている事になっている。約束通り消札を持ってきたからと、解毒薬と称して、さらに強い毒薬を飲まされるのがおちだ。

そうだ、メルシィーニがいたか。

でも、あいつも、もしかしたらあの猫女と手を組んでいるのかも知れない。

何も、わからねえよ。

俺には見抜けねえ。

もう、わからねえよ。



「ハクマッ!」



挟み撃ちにされそうだ。



ダッ!



ダッ!



シブ、自分を見失ってるな。

こいつら黒眼こくがん五人衆が無茶苦茶するのは、この街の奴らなら、わかるだろう。

シブの形相に、浮浪殲滅部隊の奴ら、後退りしてる。

本当は、シブと浮浪殲滅部隊のいる間を慎重に探せば、姿を消している俺を見つける事ができるのに。

シブと話をして連携が取れる状態じゃないから、一旦、身の危険を感じて、距離を取ろうとしてるんだ。



「ハクマッ!何処だ!?」



浮浪殲滅部隊の人と人の距離が7m以上離れた。その距離はもっと広がっていく。

これは、明らかに陣形が崩れたぞ。

今だ!
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