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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その216

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こけし君ちゃんが立ち去るまで、少しばかりの時間、大窓の縁に立ってやり過ごすか。

そう思っていた時、小石が床に落ちたかの様に軽そうな足音をさせながらも、冷静で油断ならない慎重な足取りにも思える1人が、上から降りてきた。

またこいつが戻ってきた。

何で、今日に限ってここにいるんだ。

いや、元々この城に出入りしてもおかしくはなかったのかも知れないけど。

三角帽子を被っている黒眼こくがん五人衆の、シブ。

こいつは、帽子なんか被ったところを見た事がないのに。

嫌な予感がする。

シブの視線が走る。その目つきが、物語る。

何か、今までにない並々ならない執念を感じるんだ。

俺はこいつが苦手だ。

もちろん、俺より実力が遥かに上で、手強い相手。こいつに目をつけられてるっていうのもある。

だけど、シブは何処か俺の調子を狂わせる。

戦いづらい相手だ。

基本的にこの城の護衛として、いつもいるのか?

さっきはこの城の中で、何かを待ち構える様にして窓の方にいたよな。まさか、この俺がこの城に侵入する事を誰かから聞いていたんじゃないかって、思っちまう。

気のせいなら、いいんだけど。

またあの猫女が裏切ったのかって。

毒まで飲ませておいて、そんな事があるのか?

わからない。わからないけど、この場所は黒い灯籠の囲いの中にある城だから。

空の監視は届かない。それなら、このシブは全力で戦えるって事だ。

警戒しないといけない。

見つかってしまえば、どんなに幸運が舞い降りたところで、太刀打ちできない。

俺が死ぬのは目に見えてわかる事だ。

ここは気をつけろ。

足音はもちろん、急な動きをして鎧の金属音も抑えないといけない。呼吸すらも、控えるんだ。



「シブ。しっかりと見張っておくんだ。わかってるよね?お前は、そのためにこの城に再配置されたのだから」



太鼓六変人たいころくへんじん風情が、何を偉そうな事を言ってくれるんか。私を相手にして、生き残る事など難しいんよ」



想像通り、基本的に仲悪い連中ばかりだ。この街の奴らはよ。

まぁ、その隙に俺は行かせてもらうからな。



「ここに新参者のリョウマ族が現れる可能性がある、そう言っていた…」



「!?」



やっぱり、情報が漏れてる?

何でだ。また、あの猫女が?

どうして…。



「リョウマ族?そうだったか。私は、古球磨ごくま族の裏切り者がハムカンデ様の首を狙って侵入する可能性を聞いていたのだが…」



「古球磨族の裏切り者?」



「そうだよ。その裏切り者である侵入者を、同族のお前が斬るんだよ。ハムカンデ様は、お前の忠誠心を試しているのさ。見事、期待に応えてみせるんだよ」



このこけし君ちゃんは、シブの神経を逆撫でする事に躊躇していねえ。多分、シブの事が大嫌いなんだ。因縁なんて、いくらでもあるだろうな。恨み、恨まれそうな感じの振る舞いなんて、お互いに得意だろう。

過剰に暴れ出したら、巻き添えを食うかも知れない。

シブが俺を待ち構えていたとしたら、逆にいい機会だ。早く立ち去らないと。



「六変人、お前も太鼓叩きばかりしてないで、たまにはこの城に貢献したらどうなんよ。そこの劫殺ごうさつの間に誰か入ったんなら、侵入者の死体を確認するべきだと思わないんかなぁ?」



「その役割もまた、シブ、お前の役割なんだよ。さあ。襖を開けて、中を覗くといい」



ゆっくり、ゆっくりと。

さぁ、下の階へ行こう。俺は消札けしふだを手に入れたんだ。もう、この城に用はない。



「…今、そよ風の動きが変わった」



「ほう。わかったよ、シブ。ここはお前に任せる。私は上の階に戻らないと、ハムカンデ様に怒られるんだ」



こけし野郎、ちょっと待てよ。もう少し、シブと話していてくれよな。

そよ風の動きが変わったって、それは何を意味するんだ?

俺には嫌な予感しかしない。まさか、俺がいたから、風の向きが変わったって、そう言いたい訳じゃないよな?

隠れ布でまだ俺の姿が見えていない今のうちに。早く、急いで下の階に行くんだ。
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