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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その211

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「お前は…オーロフ族として数えるべきか?そこで一つ解決もするはずだ。答えやすい問題だとは言えまいか?」



…また答えを間違えやすい様に誘導してきた?

やっぱり、俺が間違えるのを期待しているんだ。

そして、いたぶりながら殺す。

元々、この部屋は劫殺ごうさつの間なんだろう?

迂闊に入った侵入者を殺す部屋。

それを、空間をいじって、自分の部屋まで俺を連れてきた?

目が開かない様にして、不安を煽って…そして、弱気になった俺を一気に殺すんじゃなくて、ギリギリ乗り越えられるかどうかの困難を押しつけて、もがいている俺を見て、楽しんでいるんだ。

蟻を水溜りに浮かべて、必死にもがくのを楽しむ様に。

悪趣味だ…。

さすが、この世界のゴミどもの1人だ。

お前に言われるまでもなく、俺はオーロフ族じゃない。

…そうだよな?





ペタペタ。



ほら、ないじゃないか。

獣耳じゃない、普通の耳だ。



「その様に頭に触れなくば己の種族さえわからんとは、お前は一体何者なのだ。さて、オーロフ族の特徴でもある垂れた獣耳はついていたかな?」



「…いや」



「フハハ、面白い奴だ。しかし、その様に確認などされて、答えを探す事は許すべき事なのか?私の問題はいとも簡単に回答できるものとは言え、今は真剣勝負の場でもあるのだ。お前は命を賭けてまで、この階にある消札けしふだを取りに来て、私も相応の覚悟でお前に問題を出しているのだよ、それがわかるかね?」



「ああ…」



「素晴らしい返答だ。すぐに返してきたな。では、小僧…お前を信じよう」



やっぱり、何かある。この部屋に他に誰かいるとか。それとも、まさか俺の目の前にいる奴は、実はオーロフ族じゃないとか?

自分はオーロフ族だなんて言っていないから、もしかして俺が勝手に思っているだけで、本当は違うのか?

わからない。

いや、同族を仲間と思うか?って質問した時に、オーロフ族同士は…と言っていたよな。

こいつはやっぱり、オーロフ族だ。



「その長考も、時間を不必要に与え、容易く回答する事に繋がる…」



「制限時間なんて、聞いてないぞ」



「そんなものを設ける必要もないのだ、小僧よ…」



「これは彫魔法ジェルタの一種だが、一つの褒美とも言えるものかも知れないな。良い体験をさせてやろうか…」



どういう事だ!?

まさか?

俺はまだ回答をしていない!だから何も間違えていないのに、罰でも食らわすつもりなのか?



「手感、喪失、庇護、霊媒、絶、無、老…」



「ま、待て…!」



手が痺れてくる。そして段々とその痺れが強くなって、俺の手が。

え!?

消えた。

そんなバカな。

どうしてだ?

手は…。

わからない!?

そもそも、手とは。

何処についてるものなんだ?

ああ、わからない!

頭の上だったか?

それとも、足の爪先についているものなのか?

頭の中にある手というものの存在が、忘れかけている。



「…体部喪失網ガレンガ!」



「もう、自分の体や周りの物に触れる事はできなくなった。さぁ、答えるのだ、小僧」



「オーロフ族は、この部屋に…」



1人だ。

そう言いたいけど、何でこんな事をするんだ?

俺の手は何処だ?

まさか、本当に消してないよな?

もう答えるしかない。

何も考えられない。

1人だ。

そう、オーロフ族は1人だよな?

他の人がいる様な気配も感じない。

それで正解だ。

早く、俺の手を戻してもらわないと困る!

早く答えないと!

でも。

俺にこんな事をするくらい、この部屋の何かに気づいてほしくないのかも知れない。

そうだよな。

なら、答えは1人じゃない。

そうだ!

この男は、この部屋にオーロフ族が何人いるか、って聞いていない。

何体いるかって聞いてきたんだ。

何で何体って言ったんだ?

この部屋にいるのが、もし死体なら?

何体って聞くんじゃないのか?

でも、いるか?ってどういう事だ。

この部屋にいるのは、何体か?そう言ったよな。

この部屋にいる?

なら、そいつは生きているのか?

ああ、わからない!

どうすればいい!?

どう答えれば、正解なんだ…!
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