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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その207

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ふうっ…。



こいつ、俺に嫌な圧力かけてくるな。俺を散々弄んでから、その後、いともかんたんに殺そうっていう事なのか?

少なくとも、俺に主導権はない。

このままだと、目の前の奴にいい様にされて、死ぬ。

このまま、3つの問題に答え続けていいのか?



「この城には、他にも出入り口はあった。今は塞いでしまった様だがね。当然だ、この城の後ろにもかつて続いていた街並みが、大地と共に崩壊している」



「星の崩壊…?」



「そうではない。その遥かに後の出来事だ。この弁帝街べんていがいの半分が、この城の後ろにも広がっていたのだ」



「一度復活したのに、土地が壊れたのか?」



「不可思議な事だが、意図的に崩壊させた輩がいる」



まさか、俺の夢に出てきた闇竜?



「残念な事に、その輩はオーロフ族の中にいたのだが、しかしそう不思議な事でもないのかも知れん」



「オーロフ族…」



この街はオーロフ族のためのもんだろ?家に東角猫トーニャ族という奴隷を置いて顎でコキ使うんだからな。いい身分のはずなのにな。

今、残念な事にって言ったか?

なら、お前は同じオーロフ族なのか?



「オーロフ族は元来、陰湿で、頭が回らん。だから、財を蓄える術などまともに思いつくはずもない。だから、目につく財を衝動的に奪うのが関の山なのだ」



ただのカスじゃねえか。何でそんなカス種族がこの街の中心にいるんだよ。



「そんな種族でも、窃盗を繰り返せばそれなりの知識も身につくし、拘束されない立ち回りもできる様になる。そして、それを生業にしていく事になる。それが、オーロフ族なのだよ」



何だ?けなしたり、持ち上げたり、忙しいな。結局、どういう風な位置づけにしたいんだ?



「オーロフ族は、外来種族であるデルアーガ族、所謂、魔族に該当する輩だが、その者共の宝物庫から、得体の知れない物を盗み出したのだ。それが、オーロフ族を呪われた進化に向かわせた魔闘石ロワだ。その石がなければ、古球磨ごくま族と手を組む事もなかっただろうし、東角猫トーニャ族との立場を逆転させる事もなかったであろう」



デルアーガ族って奴らが魔族?外来って事は、この大陸の奴らじゃなかったって事か。それとも、この星の奴らじゃないって意味で言ったのか?



「オーロフ族と東角猫族とは、水と油なのだよ。相容れない存在。それは永久に変わらない。オーロフ族は劣等感の塊、頭が回らない事もそうだが、この薄暗い肌色でさえ、恥じる。対照的に色白な姿の東角猫族を妬み、陰湿な炎を燃え上がらせるのだ。東角猫族も見た目から感じられる優艶さとは裏腹に、相手を劣等種族と見なせば、見下した態度を取るのだから、実に傲慢な種族だと言えるな」



まさにそんな感じだ。ハムカンデや、あの猫女やメルシィーニと話して、それを感じる事がある。



「星の崩壊による損害を比較的最小限に留められたのは、タルダンドバリアを張った者からそう遠くない場所に我々の村があったからだ。しかし、東角猫族の住む一帯の面積は広く、そのバリアから半分以上が漏れ、星の崩壊による損害は甚大だったのだ。東角猫族の権力者の大半は死に、彼らの中で英雄的存在のクェタルドも、瀕死の状態だったと聞く」



今の会話で何となく、この目の前の奴はオーロフ族て間違いなさそうだな。

何で今、こいつは俺にそんな話を聞かせるんだ?知ってほしいのか、それとも、ただ今だけ耳に入れてほしいだけか?

2つ目の問題は、もう止めるのか?それなら、1問目は答えたんだから、消札けしふだをくれよ。



古球磨ごくま族と鬼眼鴉キメア族は非道、残忍な種族で似た者共だ。双方ぶつかるのも至極当然の事。だが、鬼眼鴉族の《冬枯れの牙》に別の種族を加える事によって、手に負えない醜悪な集団と化してしまった。結果、古球磨族は敗勢し、滅びを一途を辿る形となった」



「しかしその窮地に、オーロフ族が手を差し伸べた。鬼眼鴉族との争いを形勢逆転とするには、呪われた進化、魔闘石が適しているという事になった訳だ。そして、その魔闘石を譲り分ける代わりに幾つかの条件をつけたのだが、その一つが、相容れぬ存在の東角猫族をオーロフ族の奴隷化するというものだった」



《冬枯れの牙》か、気分の悪い奴らの名前を、ここでも聞く羽目になったな。鬼眼鴉族か…。あのラグリェもその種族か?

魔闘石は、俺が明日もこの街にいたら、そして、ナグと戦って負けでもしたら、それを無理矢理つけられる。

人体改造なんてされてたまるか。性悪なオーロフ族や古球磨族と一緒になんかされてたまるかよ。



「この場所を我々の第2の拠点とするため、多くのオーロフ族と東角猫族、そして手を組んだ全ての古球磨族、そしてゼドケフラーを引き連れ、我々は現住種族と戦った。日々戦いに明け暮れ、体に返り血を浴び、それを拭い去る暇もなかった…」



「昨日見た者達が今日はいない。そして、また一人、一人といなくなっていった。決して無駄な戦いなどではなかったが、我々には故郷があったのにも関わらず、この戦いは誰のためのものだと、志したはずの道を霧に隠され、迷う日々もあった」



「あんたは、同族を仲間と思っているのか?」



この世界は同族でも敵視したりする奴らも少なくない。でも、あんたはどうだ?いや、オーロフ族自体はどうなんだ?それ以外の種族には冷たい目を向けたりもするけど、オーロフ族同士は仲間意識が強いのか?



「遥か昔、他種族から迫害を受けたりもした。しかしそうした経験が、オーロフ族同士の結束を強固にしたのかも知れない。いや、そう思えた時もあった。だが、今はそうは思わない」



「思わない…?」



「劣等感と陰湿性は、時として仲間であるはずの同族に矛先を向ける事もある。その時に、悲しいかな、命を散らす場合もあるのだ」



常に仲の良い間柄なんて、ないんだろう。俺だって、そんな仲間はいない。

もしかしたら、俺も人から恨まれる事もあるのかも知れない。そして、命まで狙われたとしたら、悲しいよな。

それは、相手にもよるか。

そして命を狙われる覚えもないなら、相手を憎む事だってあるんだ。

でも、俺はすでに、この世界の奴から恨まれている。

《冬枯れの牙》のラグリェは、完全に逆恨みだけどな。

シンガリ族のキリングは、俺が倒したんだ。

キリングの事、悪く思っていない奴がいたなら、そいつには恨まれてるだろうな。

キリングは、大陸を浮かそうとしてがんばっていたソライン族を、役立たずとかってゲルロブライザー装置に投げて殺したり、俺を殺そうとして楽しそうにしていたり、性格は崩壊しかかってたよな。ただ、最後のところで、高天魔こうてんま四大将のグレンベール・アルシオンの、人を繋いで世界を救う事に望みを持っていたし、完全な悪には染まっていない様な気もした。

だけど。

俺も死ぬ訳にはいかない。

どんな理由があっても、俺を殺そうとするなら、手加減なんかできる訳がないんだ。

そんな力なんてない。

でも。

必ず、元の世界に。

帰ってやる。



「さて、ここで第2の問題を答えてもらおう。もちろん、先ほどと同様、間違った答えを選べば、お前の目は塞がったままだ」



「俺に、恨みでもあるのか…?」



「小僧、お前はこの城に恨みでもあるのか?何故、治安を乱す様な事をするのだ?」



「いや、俺は…」



「お前の考えに平伏し、根底からこの街の法則を変えるべきか?それは懸念すべき事だ、小僧よ」



「いや、でも」



「残念だが、次の問題だ。しかし不安に思う事はない。これまた、至極簡単な問題なのだ。答えられぬ方が、どうかしている」


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