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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その199

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「さぁ、宝酷城ほうこくじょうに行っておいで。お前の…仲間、ゼドケフラーを救い出し、戻ってくるんだ。その時に消札けしふだ3枚も忘れるんじゃないよ?」



「ああ」



「お前の未来、そして私の未来。この一日で、全てが変わるのさ…」



「必ず、消札とパルンガを持ち帰る」



「じゃあまず、約束通りこの毒薬を飲むといいさ」



何だ、そこは忘れないんだな。

はい、毒薬ですって渡されたら飲みにくい。屈辱以外の何ものでもないし。



「これ、どれくらい時間が過ぎたら毒が回って死ぬの?」



「まぁ、2時間くらいかねぇ?」



「時間が迫ると、どんな状態になっていくんだ?」



「末端神経がやられ始め、手足の先から痺れが中心部へと広がり、次第に動きが鈍くなり、そして体の各機能を停止させる。あまり詳しくは話さない方がいいね。恐怖が勝るだろうからさ…」



手足の先から痺れてくるんだな?

やっぱり、聞いた話通りのものだな。



「一度言った約束だ、覚悟を決めて飲むよ」



俺がそう言うと、猫女は顔を崩すくらいニヤリと笑みを浮かべて、小さくて細長いガラス製カップに並々と注がれた紫色の濁り液を一気に飲む様に言ってくる。

俺がコップに口をつけると、その姿が滑稽とても思ったのか、猫女は声を漏らして短く笑った。



「さぁ、男らしく飲むんだよ…!一滴も残さずに飲み干したら、あんたを見直してあげるよ。さぁ、リョウマ族。根性見せなよ…」



急かし方がハンパねえな。良かったら、お前も半分飲むか?



ゴクッ…。



ゴクッ…。



うう…、本当にイヤな気分だ。

何で自ら毒なんか飲まねえといけないんだよ。



「よし、この布を頭に被せて、城に行ってきな!」



手渡された白い布を頭に被せて、一歩横に移動すると、猫女の視線が俺を追ってこれず、布を被る前の場所で俺に話しかけていた。

確かに、俺の事が見えていなそうだ。



ガラッ!



猫女が戸を開けて、家の外に出る。その後から、後ろを抜けて俺は城に向かって走っていった。



でも、次の十字路を右折して、城を左に見て、しばらく走り続けた。

このまま、体の中に毒を入れたままになんて、できる訳がない。

俺をなめるなよ。

しばらく走ると、家と家の隙間に光る目があるのに気づいた。

その光る目の方に体の向きを変え、歩み寄っていった。

そして、辺りを見回して、人がいない事を確認すると、光る目の視線を一旦かわす様に黒い家の壁に背中をつけ、隠れ布を取った。

そして、また光る目の方に歩み寄っていった。



「よう」



「うわぁ…っ!」



あ、やっぱり急に死角から現れたら、びっくりするよな。



「紫色の濁り液だったかにゃ?」



「ああ、そうだった」



「末端神経を侵されて死に至る毒、これは東角猫トーニャ族がよく調合するケヘルゲナって毒薬だよ。私にさらなる恩を売ったんだ、必ずクラファミースを探し出すのにゃ」



そう言って、メルシィーニは白い錠剤を2粒俺に手渡した。

そう、解毒薬だ。

俺はあの猫女にパルンガを助ける物を渡す代わりに毒薬を飲む様に言われて、その後、街中を歩いた時、このメルシィーニに偶然会って、毒薬の事を聞いていた。

東角猫族がよく使う毒薬の特徴を聞いて、その解毒薬をメルシィーニが持っている事を確認していた。

クラファミースを必ず探し出す約束をして、解毒薬をもらう事にしたんだ。

だから、俺は毒薬を飲む決断ができたんだ。

こいつは、東角猫族が奴隷として扱われるこの街ではあまり身動きが取れない。だから、人探しをするには、どうしても俺の協力が必要なんだ。

それなら、俺に対しても遠慮なく協力してもらわないとな。



パクッ!



ゴクンッ!



よし、解毒薬を飲んだぞ。



「城に行くんでしょ?ちゃんと探しておいでよねぇ…!」



「わかってるよ。じゃあ、行ってくる」



俺はまたメルシィーニの視界から外れて、辺りに人がいない事を確認して隠れ布を被り、メルシィーニの前で、俺に視線が合わない事を確認して、再び城へ向かった。



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