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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その196裏

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お菓子を作ってやるよだって?何を偉そうに。お前は最弱なんよ。

でも私は、あいつに気を許してしまう瞬間があった。お前は古球磨ごくま族なり損ないなんだって、改めて知らしめさせられた。

私はまだ、なれていないんか?

まだあの幼い頃の失態が、払拭できないんか?

村に潜入して、村の奴らの心に入り込んで情報を仕入れて、古球磨族に相応しい村なら、村人を皆殺しにして、そのまま古球磨族の村とする。ただ、それだけの事だった。

村の同じ年くらいの奴と仲良くなり過ぎて、村を奪おうとした肝心な時に、助けようとしたなんて、今でも汚点だ。古球磨族として、見苦しい失態を見せた。

一緒に遊んだり、お菓子をもらって食べたりしたのが過ち。

それとも、私の覚悟が足りなかったんかなぁ?

でも、私に幸運が舞い込んで来た…。

あの村の男の子と、リョウマ族のあいつが重なって見える。

相手を疑わない様な輝く目を残して、少し内気な部分を何とか隠しながら、話しかけてくる。

声も似てるんよ。

そう、だから今度こそ。

これは名誉挽回をする機会。

また同じ事を繰り返しする訳にはいかないんよ。

お菓子など作らせはしない。お前の命を奪って、私はあの時の失態を取り消してやる!

そう、古球磨族が村を奪おうとしたあの時に時間を戻して、私はみんなと同じ様に、村人を殺すんよ!

リョウマ族、お前を。

必ず。

必ず、仕留めてやる。

そして、私は真の古球磨族に返り咲く。



「うろ」



「お前、またオーロフ族を斬ったなぁ?真新しい返り血がついてるよ」



ゲルは、妹を失ってから、古球磨族らしくなった。こいつが人前に姿を現すだけで、周囲を凍りつかせるほどの恐怖を与える。

私はハムカンデ様の言いつけ通り、この街の反逆分子を排除してきた。

でも、私はまだ古球磨族にはなれない。

ゲルと同じ様にはいかない。

そうこうしているうちに、頭目からの指示が下った。

今後、古球磨族の脅威となるオーロフ族には、順番に消えてもらう事になる。

同族で重要な位置にいたはずのホルケンダをいとも簡単に殺したハムカンデは、やはり裏切りに躊躇いはなかった。



ポンポン…。



「どうしたんか、ゲルぅ?私は大丈夫なんよ。何を心配して…」



「ハクナ…」



「!?」



久しぶりに聞いた、その名前…。



「お前は感情を抜かれて意識が薄いのに、妹の事は忘れないんよな」



「うろ」



「ハクナを殺したハムカンデへの復讐心は、まだ消えてないんよな。だから、無差別に殺し回ってる様に見えて、オーロフ族ばかり殺している」



「うう…」



「今のハムカンデの力は、魔闘石ロワのおかげで何処まで強くなったのかな?街の住人から魔力の貢ぎ物もあるし、何より、ゼドケフラーのエズアの魔力もいくらか吸収したはず」



黒眼こくがん五人衆の中で最強の頭目でも、今のハムカンデを倒せるんか?でも、やられる前にやるしかない。

私達は、この魔闘石に魔力を取り込んだりはしなくなった。この魔闘石は、何かおかしい。だから、どのタイミングかでオーロフ族が古球磨族を力で上回る可能性があるんよ。



「うろ」



何を不安に感じる必要がある?

私達は、最強の古球磨族なんだから。



「ゲル、黒眼五人衆の力、見せつけてやろうなぁ?」



「うろ」



「フフ…、みんな覚悟しとけよぉ」



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