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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その195

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はーっ!



はーっ!



グラッチェリ。



それがお前の正体か?



悪ふざけをしていたお前の顔が懐かしいな。

集中を欠いている様で、そうじゃない。不思議な顔だ。空が感情を抜いてくるのを警戒しながら、最大限の意思を見せてくる。その虚ろな目の奥で、本当のお前は何を見てるんだ?

お前は、俺を仲間に入れたいんだとしたら。

それは何故だ?

俺なんか、ただのゴミだぜ。

もう1人の影を追ってるんなら、俺は見当違いだ。

もう1人の俺は、俺よりは確実に格上。

期待しても、ムダだって事だ。

それに、もう少しも期待されたくはない。

重荷だからな。



「素晴らしい対応だ、よ。昨日よりも、確実に?強くなって、いる。君と一緒に、この街を出ようね。君となら、この先、何処にいても、安心だ…」



「ははは…」



「何がおもしろいの?」



「俺なんかが?何を以って安心なんだ?買い被りもいいところだ。その見る目をまずは直すべきだろうな」



「買い被りなど、しない…」



俺は。

名前がないって、お前に言ったんだよ。

笑えるよな。

俺の名前は、本当はあるのにさ。

もう1人の俺の力には、どうしても追いつかない。敵う訳がない。

そいつを思い浮かべられても、困るんだ。

そいつは、《冬枯れの牙》を二人同時に退けたんだぞ?

一人は肩書を持った強い奴だ。それをいとも簡単に、払い除けた。

…余計な事しやがって。

どうせ死ぬんなら、簡単に死ねばよかったんだ。なのに、変に強さを誇示しやがって。

俺が…。

惨めじゃないか。



「どうした、サイクロス。まだ、君への力試しは、終わってはいない」



「…俺の力は、十分にわかったはずだ。俺は、この様に…カスなんだよ」



「カスではないよ。そう、力試しじゃない。君の力をさらに磨き上げてあげる。それこそ、僕が願う事だ」



「何で、そんな事言うんだよ?」



「君と、この街を去ろうと思っているからさ」



「…」



「ハムカンデ様の前で、力を証明すれば、ある程度の自由が与えられる。その後、僕が考えたこの街を逃げる方法を、君に教えよう…」



「どんな方法だ?」



「君は、明日の戦いに集中してもらえれば、それでいい」



明日のハムカンデの前で戦えって、そう言ってるんだよな。そんな事をしたら、俺に救いなんかないんだ。

残念だよ。

お前の考えに乗る事なんかできない。



「サイクロス、この世界で生き抜くためには、一つや二つの戦いを乗り越えたところで、その瞬間にただ呼吸を続けているに過ぎない。まだ、死と常に隣り合わせにあるんだ。もし、安寧を求めているのなら、それは夢物語というものだよ…」



俺がナグとの戦いに逃げる様であれば、いずれ他の奴に殺されるって、そう言いたいんだな?平和ボケしてんじゃねえよって、そう言いたいんだな。さっきから、ずいぶんと流暢に話すじゃねえか。

戦わないで済むのなら、それが一番いい。それが、何よりだ。



「何で、俺に戦わせたいんだ?お前だって、この街が気に入らないんなら、堂々とこの街から出ていけよ。戦ってでもよ?」



「僕は、君に、この世界中全ての者達と、戦えって、言っては?いない。僕はこの街でハムカンデ様に認められ、いる。だから、この街で、僕が戦う意味がないんだ。君のハムカンデ様の前での戦いは、危うい立場を、一変させるための、必要な戦い、じゃないのか?」



必要な戦いだと?

俺の状況を知らねえで、何を偉そうに言ってやがる。

お前は意外と、この街に合ってるのかも知れないな。



「また明日、ここで会おう。その時は、君はハムカンデ様の前でいい戦いを見せて、きっとこの街で有利な立場を手に入れているに違いない…」



さっきはまだ力試しが残ってるって言っておいて、もう俺を見限ったのか?

それはありがたいな、お前とは考え方が合わないみたいだ。

もう二度とお前の顔を見る事もないだろうよ。

じゃあな、グラッチェリ。



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