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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その187
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ボルティアの地下2階。
大きく入った壁の亀裂。この宿の中を見渡してみても、埃は被っていても壊れている物なんて見当たらないのに、この大きな亀裂だけ修復しないのは、理由があるのか?
この亀裂は、地震でも起こってできたものと考えるのが普通だけど。横に伸びて、途中から亀裂が大きく上と下の二つに分かれている。亀裂の場所によっては、指を伸ばせば片手が入るほど広く開いている。
でも、この裂け目を覗いても、先は真っ暗闇。ただ、奥から空気の流れを微かに感じる。多分、さらに下の奥の方に空洞がある様な気がする。
この間は、ここから声みたいなものが聞こえたのに、今は何も聞こえないな。
やっぱり、気のせいか?
目を凝らして何とかさらに奥を覗こうとすると、まるでその行為を止めさせようとするかの様に、壁の電球がチカチカと点滅し始めた。
ハハハ、まさかそんな。
止めろよ、本当に。
俺はただの勘違いという事を確認しにきたんだから。
この街に、ハムカンデを筆頭に陰湿で戦闘能力不明のオーロフ族達や街を回ってる殺人集団の黒眼五人衆がいるだけでもストレスたまるんだ。今さら、魔闘石盗んで、明かりのない家の中の鱗にはめて、そこに毎日生け贄を持ってこいとか、ヤクザでも頼まねえ様なイカれた要求言ってきやがる超陰湿珍獣なんか出てこられても困る。
…。
この亀裂の裂け口に、埃が被っている。最近、亀裂が入った訳じゃないな。
この亀裂の奥に向かって声をかけたら、夢にいた竜がこの中に棲んでるなら、何か反応するかな。
よし、言ってみるか。
「おーい、おやつだぞ…」
「…」
結構アホな言葉選びにしらけたとかで返事しない訳じゃないよな?じゃあ、もう一度。
「お前は、夢に出てきた竜なのか?」
返事なし。よし、この場所には何もないと判断してもいいよな。ここにいてもムダ。
変に気にし過ぎるから、ロクな夢を見ない。
もう少し落ち着こうぜ。そうじゃないと、この先に何かが起こったとしても、冷静に対応なんてできない。
俺は亀裂の壁を警戒しながら後退りして、しばらくその壁の様子を見た。
もちろん、何もない事を期待して。
静けさが続いた後、たまに亀裂の中で空気が壁に擦れて鳴いているのが聞こえる。
それくらい。
特に何も起きる気配がしない。
俺は壁に背を向けて、螺旋階段の方へ歩き始めた。
何もなかった。
パルンガの救出、街からの脱出、それもハムカンデや黒眼五人衆をうまくかわしながらやらないといけない。正直、うまくいく保証なんか、全くない。その中で、あの夢だ。これ以上の重圧は耐えられない。だけど、気のせいであってくれたおかげで、これで安心して部屋で休める。
そう思ったんだ。
だけど、5歩くらい歩いたところで、俺はまた立ち止まった。
首に縄をかけられて引っ張られる様に感じたんだ。そして、無理矢理振り向かせられる様な感じがして。
俺は前を向いたまま必死に歩き始めて、螺旋階段まで行き、後ろを気にしない様にして、上を見ながら螺旋階段を上っていった。
カチャッ、カチャッ。
一番上の1階にたどり着いて、そのまま逃げる様にして自分の部屋に戻っていった。
俺は歩くのを止めたあの時、壁の亀裂の方に目を向けていたら、どうなっていたんだろう。
俺が壁に背を向けていた時、壁の亀裂が大きく開いて、その中から威圧感のある凶悪な目が現れて、俺の背中を射抜く様な視線を向けている、そう感じたんだ。
実際に見ていないっていうのに、不思議な事だけど。
でも。
あそこには、やっぱり何かある。
大きく入った壁の亀裂。この宿の中を見渡してみても、埃は被っていても壊れている物なんて見当たらないのに、この大きな亀裂だけ修復しないのは、理由があるのか?
この亀裂は、地震でも起こってできたものと考えるのが普通だけど。横に伸びて、途中から亀裂が大きく上と下の二つに分かれている。亀裂の場所によっては、指を伸ばせば片手が入るほど広く開いている。
でも、この裂け目を覗いても、先は真っ暗闇。ただ、奥から空気の流れを微かに感じる。多分、さらに下の奥の方に空洞がある様な気がする。
この間は、ここから声みたいなものが聞こえたのに、今は何も聞こえないな。
やっぱり、気のせいか?
目を凝らして何とかさらに奥を覗こうとすると、まるでその行為を止めさせようとするかの様に、壁の電球がチカチカと点滅し始めた。
ハハハ、まさかそんな。
止めろよ、本当に。
俺はただの勘違いという事を確認しにきたんだから。
この街に、ハムカンデを筆頭に陰湿で戦闘能力不明のオーロフ族達や街を回ってる殺人集団の黒眼五人衆がいるだけでもストレスたまるんだ。今さら、魔闘石盗んで、明かりのない家の中の鱗にはめて、そこに毎日生け贄を持ってこいとか、ヤクザでも頼まねえ様なイカれた要求言ってきやがる超陰湿珍獣なんか出てこられても困る。
…。
この亀裂の裂け口に、埃が被っている。最近、亀裂が入った訳じゃないな。
この亀裂の奥に向かって声をかけたら、夢にいた竜がこの中に棲んでるなら、何か反応するかな。
よし、言ってみるか。
「おーい、おやつだぞ…」
「…」
結構アホな言葉選びにしらけたとかで返事しない訳じゃないよな?じゃあ、もう一度。
「お前は、夢に出てきた竜なのか?」
返事なし。よし、この場所には何もないと判断してもいいよな。ここにいてもムダ。
変に気にし過ぎるから、ロクな夢を見ない。
もう少し落ち着こうぜ。そうじゃないと、この先に何かが起こったとしても、冷静に対応なんてできない。
俺は亀裂の壁を警戒しながら後退りして、しばらくその壁の様子を見た。
もちろん、何もない事を期待して。
静けさが続いた後、たまに亀裂の中で空気が壁に擦れて鳴いているのが聞こえる。
それくらい。
特に何も起きる気配がしない。
俺は壁に背を向けて、螺旋階段の方へ歩き始めた。
何もなかった。
パルンガの救出、街からの脱出、それもハムカンデや黒眼五人衆をうまくかわしながらやらないといけない。正直、うまくいく保証なんか、全くない。その中で、あの夢だ。これ以上の重圧は耐えられない。だけど、気のせいであってくれたおかげで、これで安心して部屋で休める。
そう思ったんだ。
だけど、5歩くらい歩いたところで、俺はまた立ち止まった。
首に縄をかけられて引っ張られる様に感じたんだ。そして、無理矢理振り向かせられる様な感じがして。
俺は前を向いたまま必死に歩き始めて、螺旋階段まで行き、後ろを気にしない様にして、上を見ながら螺旋階段を上っていった。
カチャッ、カチャッ。
一番上の1階にたどり着いて、そのまま逃げる様にして自分の部屋に戻っていった。
俺は歩くのを止めたあの時、壁の亀裂の方に目を向けていたら、どうなっていたんだろう。
俺が壁に背を向けていた時、壁の亀裂が大きく開いて、その中から威圧感のある凶悪な目が現れて、俺の背中を射抜く様な視線を向けている、そう感じたんだ。
実際に見ていないっていうのに、不思議な事だけど。
でも。
あそこには、やっぱり何かある。
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2021/8/21 改めて投稿し直しました。
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