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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その170

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「グラッチェリ?そうか、よろしく」



「ああ!」



「え?どうしたんだよ…」



「ぼ、僕も、もらったんだよ。その?名前をね…」



何だ、こいつ。ようするに、本名じゃないって事?まぁ、俺も本名を言ってないから、おあいこか。偽名で呼び合うのも、変な感じだけど。それでもいいや。どうせ、心底信じれる様な奴はこの世界にはいないんだから。パルンガ以外は。



「グラッチェリ、この街には来てまだそんなに経ってないの?」



「15日以上はいるのかな…?いや、もっと?」



え?意外といるな。じゃあ、この街に自分の家なんか用意されてたりして。



「ぼ?僕の家に来てよ。珍しい、雑草をみ、見つけたっ。ねえ、見てよ!」



珍しい雑草を見ろだあ?こっちは明後日に死ぬかも知れない戦いを用意されてんのに、貴重な時間を、たかが雑草見るために当てろってのか?



「雑草!ねえ、雑草!」



止めろ。俺の名前が雑草だって思われるじゃないか。名前を言わないからって、名前のファッションショーみたいに勝手に名前をコロコロ変えるんじゃねえよ。



「グラッチェリ、お前もよそ者なんだろ?長くいるって事は、この街で認められたんだよな。誰かと戦ったのか?」



「ぼ、僕?は、この街の侵入者を斬ったんだ。そして、ハムカンデ様に認められた!負けなかった、んだよ?」



侵入者、か。こいつ、意外と強いのかもな。うつろな目をして、強くなさそうなのにな。

いや、体つきはそう悪くはないか。裾から出ている腕や手首は、力強さを感じる。目立つ白い着物を着ているのも、自信の表れだったりして。そんな事はないか。



「…き、君は、僕の家に来るべきなんだ。道端で、話す内容も、げ、限界がある。この街に長居をしたくない、そう?思うなら、ついて来てよ」



「!?」



そういう事か。グラッチェリ、やるな。俺を家に呼んで、この街のよそ者同士、人に聞かれない様に話をするのは重要だ。確かに、雑草を見に来いってのを真に受け過ぎだったか。そういう事なら、行かせてもらうよ。



「行こうぜ、グラッチェリ。雑草を見せてもらおうじゃないか」



「ざ?雑草好きなんだね。うれしいよ!」



ふとした時に癇に障る言葉、さてわお前は人を苛立たせる天才だな?こうやって陰湿なストレスの発散方法を編み出して、この街で自由気ままな生活を満喫してる訳だ?お前の家に行って、本当に雑草見せてきたら、お前の鼻と口にそれを全て詰め込んでやるからな!



「サイクロス、行くよ?」



てめえ!俺はお前のペットじゃねえんだよ。あんまり苛立たせると、俺の額に血管ミミズが浮かんで、暴れ出すじゃねえか。

ん?オーロフ族が道端で俺を見ている。何か、俺を見る目に少し違和感があるな。軽蔑したりする目じゃない。どちらかというと、驚きというべきか。

何が珍しいんだよ。

もしかして、俺が雑草という名前に驚きを隠せないとかか?

こいつの言い方がそう聞こえるのかも知れないけど、俺の名前は今からサイクロスだ。覚えておけよ。



「サイクロス?ほら…」



ほら、じゃねえんだよ!



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